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暇だ……。
は借りてきた冊子をぺらぺらめくった後、やがて放り出した。
――大体読み終わったし……
そもそもあれから何カ月たってると思うんだ!!
叫びちらしたい気持ちをなんとかのみこんで、障子を少しだけ開けてみる。
覗く庭と、木造の廊下……檜の香りも最初こそ喜んだものの、こうも毎日かいでいると慣れを通り越して飽きた。
「外出たい……。てか、何で。ちゃんが出てよくって、私はダメ?」
文句の一つも言いたくなる。
ちなみにとは、一緒に此方の世界に飛ばされてきた友人の名前だ。
フルネームで。。
男装させるとむしろ美男子で通ってしまうお得なかんじの女性は、聞けばとっくに土方の下で働いているらしい。
「しかも、どうして、土方さん……」
そうはいいながらも、分からなくはない。
なんせは先周りして物事を考えることならばピカイチなのだ。だから……
「君は戦力として認められた。ただそれだけだ」
それは至極当然なのだろう。
「いやいやいや……って、山崎さん。イキナリ話しかけられると流石に吃驚しますって」
障子にうつる影。
認めて呼べば、急須を持った男が内側に入りこんできた。
新撰組副長助勤、山崎烝。
念のため、いっておくと彼は隊長に連なる戦力――土方の懐刀であって、決してのお茶係ではない。
がしかし……
「窮屈だろうが、暫くこの状態が続く。慣れるしかないだろうな」
「えええぇ……暇すぎ……」
「…………」
「あ……ごめ、なさ」
「気にするな」
激務の合間、彼はこの「暇人」のもとに、足を運ぶ。
「もとはと言えば、珍しくも副長に許可を取るより先に君を問いただした俺が悪い」
「……」
――嫌味じゃないってわかってるんだけど……
そう聞こえるのは、が前科を持っているせいか?
なにせ、ときたら、彼が監査方ときいた途端、大喜びで飛びつき……(※監査方といえばスパイ!の大好物だから※)その結果、彼を自分つきの「見張り」にしてしまったのだ。
山崎の方はよもや、「監査方として身を預かる。情報はすべてはいてもらおう」のひとことで、部外者に懐かれるとは思わなかっただろう。
はたまた、その部外者の質問に、幹部のひとりが興味を抱くとも……「これはいい。山崎にまかせるか」と近藤が微笑ましげに呟き、土方が諦めたように命を下すことも……想像しなかったにちがいない。
「………はあ」
彼のため息は、今日も絶好調に重い。
「……」
今更放りだされることもなさそうだが、無言のうちに、つかえないやつ、と暗に言われているような気がして、は黙り込んだ。
――外の事情がさっぱり見えてこない此処じゃ、貴重な人材だしね。
機嫌を損ねたくないという打算の裏、もちろん実際山崎には世話になっている、という感謝もあった。
「……同郷の人間が此方側に入るとあっては君の気持ちも複雑だろう。がしかし、副長の命だ」
「……うん」
こんな風に気をつかってくれるのも、此処ではこの監査くらいなのだ。
あるいは……
「ところで、山南さんが久々に戻ってくるときいた。恐らく君の様子を知りたがると思うから用意しておくように」
「っ?!」
「どうかしたか?」
「いえ、ちょうど考えてた人なので」
山南敬介――初対面で質問するに興味を抱いたひとだ。
殺す殺す脅してくる沖田や、いまだ奇異な目でみる藤堂平助、永倉新八はもちろん微妙な距離をとる幹部のなかで、唯一庇ってくれる御仁。
――でもちょっと、ちょっとだけなんだけど……苦手なんだよね、あの人。
見た目はタイプなのだ。そのうえ、思考が比較的近い、好ましいことはしっている。会った面々の中で恐らく一番大局を見据えているのが彼で……だからこそ、その回路とて嫌いなはずはない。
ただ…
「自ら私なぞと話したいっていうのが申し訳なくて」
――てか、知恵は与えられず訳に立たないって思われたらどうしよう……。
全てを摂取しおえたら殺されてしまうんじゃないか。
その危険を感じないでもない。
そういう冷たさが彼にはあるのだ。
「山南さん自ら望んで生かしたんだ?そうひどいことはない。まだ警戒してるのか?」
ならば意外だ、と山崎は首を傾げるが……
「――警戒というより、分からないから……」
だから戸惑う。
打算で動いているのだろうが、読み切れないのだ。あの人は。
「確かに君は直接的には役にはたたないが、あのひとがわざわざ三ヶ月も生かした人間ならば何がわけもあるんだろう」
「俺には理解しかねるが、」と。
つけくわえられる余計なひとことは無視するとしても、恐らく山崎なりに慰めてくれているのだろう。
「そっか」
――考えていても無駄か。
同意して、再び山崎に向き合う。
沈黙が場所を支配するよりさきに、関係のない質問を一つ。
「ちゃんはどんな仕事してるの?」
「……」
「まさか、監査とか?」
「――内緒だ」
山崎はこの通過儀礼を理解してくれた。
答えるはずのない問いにもあきれず、律儀に返し、の憂いをきかなかったことにしてくれる。(山崎とて隊士。仲間を疑うは、切られても仕方ない)
たわいのないやりとりを幾つか挟んで、やがて――
「山南さんをよんでくる」
が落ち着いた頃合いを図って、山崎は言う。
結局のところ――どう回避したところで≪彼≫は逃してなどくれないのだ。
知ってはいる、だからこそ胸が軋んだ。
――役になど立てないのに。
憧れ、ではない。
残酷に籠の中に買われているイメージ。
しかも、小鳥は決して美しくも、賢くもないのだ。
「どうしてくれよう」
呟きは若干拗ねたように響き……わずかに幼さが滲んだ。
このままでは勝てないと、それがまたを悩ませるが、それこそあざ笑うかのように、かれのひとは襖を開けてくれる。
「少しだけ――話をしましょうか」
得体のしれない笑みを浮かべながら。
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