◇ 驚きすぎると普通になる?◇

此処に来てから、一週間は立った――と思う。
正直なところ、そろそろ数えるのも止めつつあるのだが。

「ふー」

は息を大きく吐き出した。

「命が助かったのはいいんだけど……もう、勘弁してくれないかな」

ぼやいても、返事はない。
唯一の、愚痴り先――山崎は外に出てしまっていないし、その他にこの部屋を訊ねるのは一人だけ。――このストレスの現況である。
『彼』には、先ほどやっと自室をお帰りいただいたばかりなので、引き返されても困る。
というか、としては「お前、んなに、暇じゃねーだろ!」と叫びたいところ(実際似たようなこと叫んでる)のに、相手は余裕綽綽。
にこやかな笑顔とともに、決まって日に一度は、此処をおとずれて、
『後学のために』だなんて、に話をせがむのだ。

「話ってか、議論だよね……。もう、むしろいっそ学会のがマシじゃない?ってレベルで、バトルだよね?」

昨日はぽろりと、「上からの締め付けで、守らせるのは上等じゃないんですって。だから有る程度私みたいに頭ばっかり使えるやつってのは、自由を与えて……こう、上手く操るべきなんですけどね」なーんて、外に行きたい一心で漏らしたものだから、さあ大変。

それに至るまでの「組織論」について、散々、見解を聞かされ……かつ、反論しろとせがまれた。
ちなみに、反論せがむって、どんなドエムだよ、と思ったことは言わないでおいた。
結局、彼には他でイラっとしたことがあったに違いなく……その八つ当たりに、は使われるだけなのだから。

「――で、ちょっと白熱しちゃったのは、こっちが悪いんだけどね!でもね!」

だからって、嬉しそうに、疲れて適当になってきたの論点の上げ足を取っては、

「『その程度の知識ならば、必要ないのですが?』だよ???? やっぱりドエスだよ。あの人……」

つまり、これ以上もっと詳しく自分に役立ちそうな情報をくれなきゃ、殺すぞ、というわけだ。
流石に彼の、文字通り鶴の一声で生かされた身としてはゾッとしない話。

「もう少し優しくしてくれてもいいのに」

願うだけ無駄としっているが、そんなイジメにせいをだすお人なのだ――山南敬介。という人は。
けれど、とて、彼がそれだけの人ではないと知っている。この数日、なんのかんの仕事の合間を縫って、来てくれていたことや、その時間を捻出するために、休みを削ったことも――いやがおうにも、監視役の山崎を経由して、知っていた。

「……『明日は来られないから退屈でしょう?』だって……」

口にした声は、思ったよりも部屋に響く。
一人の部屋が寂しいのは、此方にくるまで家族で暮らしていたからか。かまってくれる妹がいないからか。

「いやいやいやいや」

ダメダメダメダメ。
あんな、神経質な眼鏡にだまされているようでは――いけない。
はキッと立ちあがり、背伸びした。

「ストックホルム症候群じゃあるまいし」

まあ、恩人だから、恩を感じるのはいいけど。
あまりに質問攻めの日日には、「悪意」すら感じるのだから。

「取りあえず、明日は来ないっていうし。――寝るか」

まだ夜というには、早い時間だが、夕餉まで時間もある。
いつも呼ばれるぎりぎりまで残っているあの人がいないせいか、急に気持ちが緩んできた。

「ふわあぁぁ」

そのまま、布団もしかずに、畳みに寝っ転がろうとしたその時――


がらっ。

「?」

襖が開き――奥から、まさか、まさかの人物が顔をのぞかせたのである。
先ほどまで部屋にいた、眼鏡の悪魔を伴って。

 *        *      *      *


「え??? えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」

悲鳴というより、大声を上げることで、どうにか理性を保とうとしている――

――て、冷静に分析……じゃないじゃない、むしろ出来てない、分析できてないから、私!!!

おいおいおいおいおいおい。
何、なんなの? これ、新手のイジメ? そっくりさんコンテスト?

なまじ回転が速い方だから、どうしようもない推測も高速度で回っていく。
沙希は軽い(? )パニックに陥っていた。
襖を綺麗に開けて、

「あ?」

と、と同じように――だが、多分はたからみたら動じていない様子で、見つめているのは「」。
要するに、の知り合い――ご同類だ。元元の世界から此方に飛ばされてきた同士。

「あ、あ、あ、あ――ちゃん?」

「……はい」

そうです、私がです。と。
そう言いかねない冷静な目。

もうちょっと慌ててくれないかな?
そう期待した自分を許して欲しい。はそう思った。
そうして、何というか思わぬ異常事態に――視線が自然と、隣へ移る。

困った時の――山南さん。
頼りたくはないが、現状、一番理解に早い人がそこにいる
眼鏡の悪魔だなんておもったことを棚に上げ、そちらを仰げば、

「おや?」

不思議なものをみるような目で、見返されてしまった。


「……え……と……」


見つめ合うこと数秒。

状況からいちぬけしたのは、やはりというか何というか、と――その連れ、斎藤だ。

「入らせてもらう」

断って、の部屋の中へ。
勝手に座布団を出して、席を設けた。

――斎藤さん?

斎藤とは、あの日……最初に屯所に入り込んだ時以来だったのだが……それにしても、と一緒とはどういうことだろうか。

――てか、男装似合いすぎだろ!ちゃん。

しっくりきていて違和感がなさすぎる。

――てか!!!ってか!!斎藤さんとなぜ、ちゃんが一緒????……ってことは、土方さんとも仲いいとか???

「うーん」

呻きが声になっているとも気づかず、は思考の旅に出ていた。
ここからしても、が「勢力図」を無駄に読んでいることはおわかりいただけるだろうか。
山南さんは、の恐慌状態を見てとったのか、しずかに、

「それで?」

と、放置して話を勧める。

「一体、改まってどういうことですか?」

「新たにうちの隊に加わった者がいる。補佐ということになるから、一応挨拶をと副長に言われて、幹部周りをしていたところだ」

「ほお……彼『女』、ですか。――なんのかんのそちらも女性の視点を欲しているのですかね」

「副長が見込んだのはこれの腕だ」

「なるほど、それは大層期待が出来そうだ」

――これは嫌みか? それとも実際土方さんが許したってことだから、凄いって認めてるのか?

……とそう。
後に、頭を冷やしたが、「山南さんってたまにわかりづらいよな」と、分析する場面である。
ちなみに、その裏で、がこっそり「これ呼ばわり」に突っ込みを入れていたことも付け加えておくとしよう。
もちろん、「……言葉の綾だ――」なんて、斎藤に即座に謝られてもいたが。


「――それはいいですが、何故『』のところにきますかねぇ。幹部のみに知らせるような、大事な人事であれば、私のところに来るのが筋では?」

「先ほど説明したと思うが、山南さん……には、彼女の監視もしてもらうつもりだった」

「つもりだった、――過去系ですが?」

「…………」

――あー、つまり、私とちゃんの関係、どうよ?ってことか。それ次第ってことか?

ようやく、思考回路が繋がった沙希は、斎藤の沈黙の意味を悟った。

――恐らく、山南さん……ちゃんの役割を確認したいのもあるけど、これって……

「――まあ、いいでしょう。彼女らは、知り合いのようだ。――、話してくれますよね?」

――、って何?さっきまで、君だったのに。何、それ。
親密にしてた覚えもあんまりないんだけど。何それ。
文句の一つや二つもいいたい。
が……の登場はともかく、山南さんの立場が悪くなることは新撰組にとっても――自分にとってもマイナスだろう。
計算しては、諦めたように、肩をすくめる。

「えーと、?ちゃん?」

秘儀:困った時は、彼女だのみ!
そして、そうこう頼りながらも、「ま、話せば」と、目で促す彼女に許可だけ取って、

「ええと……要するに、同じような境遇でして……」

「何となく」話しはじめた。
は勝手に繋いでくれる。
信じていたが、案の定、

「荒唐無稽だと思いますが、実際、同じ場所からきているもので」

は大雑把にまとめて、


「無害です。――このひと、頭は働くけど生活適用力がないので」


断定。
ええーと、不満も述べたくなる説明である。しかも、


「ああ、斎藤君。それは、私も保証しましょう」


「――……」


もう、泣きたい。
そう思う沙希だが、何よりつらかったのは、自分をよく知る(知りつつある)二人より、初対面二ほぼ毛の生えた状態の斎藤の反応である。
斎藤は深く――何やら納得した様子で頷いていた。

――おい。

疑ってくれろ。
突っ込みをいれたくなったのは、のせいじゃない。
数分もすれば、「ま、結果、生かされるんだったらいーか」というお気楽に変わるわけだが。


「もうちょっと、良く言ってくれても……」


「「――」」


「…………」


――何、この可哀そうな子を見る目!


心がおれそう。
この時代に来て、何度めかになるが、もしかして一番じゃないかと思うほどにがっくりとくるだった。



「よくわからないが――」

やがて、そうこうするうちに、収まりそうもない状況を斎藤が無理やりまとめてくれた。

「知り会いということだな」

「はい」

「それはそれで興味深いのですが……」

「山南さん?」

何、その興味深いって? という質問は、目で「黙ってろ」と諭されて、はやむを得ず口を噤む。

「人畜無害だということは何となく納得していただけたのであれば、こちらは、別に、『もともと仲間かもしれない(無能・無意味な)監視』をつけてもらってもかまいませんよ?」

(  )が聞こえなければいいのだが、感じ取れるだけに……


「………」
「………」

状況がシビアである。
主に、斎藤と明二人から変なプレッシャーがかかっている、の。


「副長にもう一度伺ってみる」

「それがいいですね」


終了。


何やらを置いてけぼりにして、一つ物事が決まったらしい。

横で「私はなんでもいいんですが」と、呟くのは
数刻後、今度はの世話係をまかされたが許可をとりにくることになるのだが、それはまた別の話だった。


*      *      *      *
【後日】

さて、しょっちゅう来るようになっただが、その裏で……

「おかげで、アレの情報が取れなくなります。あまり、長い間入り浸らないように、君に言ってもらえませんか?」

「それは……ではなく、山南さん、アンタに問題があるんだろう?真宮が怖がっているときいた」

暗に、また大方かまい過ぎて沙希に逃げられたのでは?と――最近、と山南の状況が見えてきた斎藤がいえば、

「いえ――君の優秀さは評価しますが、私は、あれで、――というひとを評価しているのですよ。その頭脳は、新撰組に生かせる。もう少し後学のために、話を伺いたいのですがなかなか、女同士ともなると「姦しい」」

引き離して、静かにさせろ。戻せと、山南さんが訴える。
がしれば、「もてもて?」と疑心半分で言うだろう状態が、起きていた。


それがそのうち……

「――あなたが来るとアレが少し調子に乗る……もう少し大人しくさせられませんかねぇ?」

と――直接。あまり来ないでくれないかと意味をこめて、嫌み半分にへ向かう山南さんがみられるようになったとかならないとか。

まあ、そんなこと、知ったことではないは、もちろん、

「煩いだけだと思うのでお手を煩わせないために、相手をしているのですが……気をつけますね」と、そう。

綺麗に返すだけなのだが。


実は、こんなスタート。山崎がいない時は絶好調で山南さん。そして、早くも出逢った二人の元同級生というトリップ設定。