「お前、また抜けてきたのか?」
「いやいや、今日は仕事おわってるから」
「本当か。俺はいやだぜ。後で山南さんにせめられるのは。あのひと、おっかないんだからな」
「……シッテマス。私が一番知ってるって……」
「だよな」
「……ていうか、何とかならないかなぁと」
「何が」
「最近見張られっぱなしっていうか」
「ぷはっ」
あはははははははは。大爆笑の原田を前に、はちょっとだけ気分をそこねた。すねて見せるように、袖をつかむ。
「む」
とかいってるとなかなか可愛く見えるのは、原田からすれば「恋する乙女は誰でも可愛い」の原理なので、当然でもある。
「お前、暇なんだろ?のむか?」
「え?いいの?いいんですか?それ、こないだ島原でおねえさんからもらってた隠し酒って」
「おう。お前日本酒すきだからな。平助がびびってたぜ?」
ちらちらと見せていた酒を手前におき、とっくりの用意をしながら原田は笑う。はそうそうに警戒をといたようでニコニコとしていた。(そりゃあそうだ。原田が貰った酒はとても上物のである)
「あの味が分からないなんて平助がお子様なだけで……」
「はいはい。んじゃ、ま、いっちょ、夕飯前ではありますが、いっこん……ん?」
「?」
「いや……あー…悪ぃ、こ、今度な?」
「え?ええ????ええええ?」
ええ?が悲鳴になって、やがて不満になるその前だった。
「――」
声をあげることもできぬほどの緊張が二人に襲いかかる。
というのも……
――誰かってきくまでもないってば!
は、声の調子で彼の心情は大体分かるつもりだった。
そして、このトーンは……怒っている。しかも静かに。
取りあえず「自分が悪いんだろうな」ということだけを理解した。
同時に、唐突に表れた総長こと「山南さん」は、酒をとろうと手を伸ばしていたを原田の方からべりっとはがした。
瞬間、
「っ」
の視界は真っ暗になる。
温かく、ふんわりとしたそれは――
――布?
「風邪をひきますよ」
そのままいっそ引きずって行きそうな調子で、彼は後ろからを抱える(たんに急に視界がおおわれてがこけそうになったための、不可抗力なのだが)
そうして、部屋に戻るように促した。どのみちすぐに晩に呼ばれるだろうし、実際、恐らくは彼の上着を――かけられて気付いた。体が冷えている。
は、彼女の上司の「過保護」に苦笑する、原田の表情をみることもなく、大人しく、連行された。
END
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