「たまにゃ、息抜きも必要だろ?」
「必要、必要」
新八の意見に、平助が加担する。
毎度のことなのだが、今回は原田までが、頷いていた。
「確かに、こんなとこに閉じこもってばっかじゃ、腐るよな」
――えーと?
状況は分かっている。
誘われている人は、。それと、。
誘っている人……いわゆる、三馬鹿(原田、永倉、藤堂)。
場所は、というと――
「島原、ですか」
――ちゃん、あっさり復唱してるし!
いやいやいや、別に男として行くわけでもないから、あれやらこれやらがあるわけでもなんでもない。お酒を飲みに行くだけってのはわかってるんだけど。
響きが若干厭らしく聞こえるのは、前日に色々吹きこんでくれた山南のせいだろうか。
それとも潜伏したときのことを教えてくれた山崎のせいだろうか。(山崎については、がねほり葉ほりきいたせいともいうが)
「美味しい酒があるんだぜ? 給金もあるしな。おら、ちゃんももらってんだろ?少しは」
お酒、という――にとっては実は素敵に響く単語を出して、誘ってくれる新八に、
「ここらへんでカネ使うっていっても、他にすることなんざないだろうし、そういうことならたまには気晴らしにいこうって」
気を使ってくれてるんだなぁと明らかに分かる平助。
もそこは汲み取ってるようで、「行く?」と目で問いかければ、無言の頷きがかえってきたが……
「あ、あの」
問題があった。一つだけ。越えねばならない大きな問題が――
――というか、私だけが、この中でまだろくに働けてないから……
お金がない。とまあ、そんなわけである。
がしかし、
「私、奢るから」
横からあっさりと助けが入った。
「ちゃん……」
とはいえ、感動しかけたに、は、自分の側の事情を晒してくれる。
「斎藤さんと同じ配分で仕事してると、たまる一方で……」
なーんて、贅沢な。
……と、を含め、他三人の心の声が一致したことは横においておこうか。
ともあれ、こんないきさつで、島原行きが決行されたのである。
運もよく、此処のところ平和な夜が続いていたためもあり、土方から外泊の許可も得ている。とがいるから、あれやこれやは無理だろうが、朝がたまで飲みふけっていても、注意されない。
素敵な、休日。
外出の許可が出て初めての、大きな遊びに、はどきどきしていた。
……そう、まさかあんなことになるとは思いもよらず――
* * * *
数時間後、いっこうは、島原の忠屋にいた。
新八たちの行きつけの店で、女もだが、酒も美味い。そして何より美味しいのは――
「うま!これ、うま!」
「、そればっかくってねぇで、これも食えって」
付け添えのおひたし。
無性に感動したが、普段あまり変わらない表情を輝かせて貪っている。
面白がるように、新八が酒をつぐついで、茸の酢の物をの皿に入れた。
「珍しくはしゃいでるなぁ。斎藤と同じように、無表情に飲むくちかと思ったが意外だ……」
「むご……たしかに…てか、佐之さん、もう飲まねぇの?」
「飲む飲む。、ついでやるから、俺のにも注いでくれよ」
「うん。てか、ちゃん、大体こんなかんじだよ? 仕事は仕事でしっかりしたい派だけど」
ね?とに向っていえば、「なにが?」と聞いてない声がかえる。
これもまたいつものことだから、気にならない。
――てか、よくよく考えたら、お酌をする機会もなかったなぁ。こっちきてから……
原田の空いたお猪口に酒を注ぎながら、感慨深く呟くと、
「一緒に飲む機会なんてなかったからな。食事んときにたまにっていっても、俺らはあんまり酒はやらねぇし」
もっともな言葉が返ってきた。
「解放されたの最近だしね」
「あー、あれだろ? しかも、外出許可を山南さんが出したのもさ、なんか化けもんでも囲ってるんじゃないかって、隊士が噂しちゃったからだって話」
「平助……お前、わざわざ聞かせてんなよ」
「あー。ごめん……」
「いいって。それよか、ちゃん、それ私も一口!」
「これ? あーん」
「はい、あーん」
ぱくっ。
狙ってたきんぴらを口にしてモゴモゴ噛み砕く。
煮汁がじわっとあふれてきて、それでいて、ぴりっと辛みがある。
美味しい……
じんわり幸せに浸っていると、
「おいおい、女同士でいちゃついてんなって」
新八に割り込まれた。
――美味しいもんは美味しいんだもん。いいじゃんか。
そもそも、確かには美人だが、今は男装のままだし――それでお酌されてる構図って外から見ると限りなく「危ない」のだが、いいのだろうか?
――てか、なんで女性にお酌してもらいたがるんだろう。男って不思議だ……
分からないから、まあいいや。
も面倒そうだし、自分でやろうか。
おもい立って、徳利を手にした。
「じゃあ、私がお酌する!」
「へ?」
「、ちょっ、零すって……」
「だいじょぶだから」
「大丈夫じゃないって」
――まあ、ちょこっとふらっとするけど……
「うーん。多分酔ってないし、はい。ちょこっとね」
と……
古今東西酔っ払いが言う決まり台詞を口ずさみながらは、順にみんなの猪口に酒を注いでいた。
確かに――此処までは記憶はしっかりしていたのだが…… その後が怪しい、と。
――後には語る。
* * * *
どうしたものだろうか。
数分もしないうちに、は我儘を言いだしていた。
眠っているのなら、可愛いのだが――そのまま寝かせておけるのだが、そうでもない。
足元だけはしっかりしている――その事実に残りの連中は頭を抱えた。
「帰るぅ。帰るの……」
「いやいや、かえるったって、この時間だから。あぶねぇって」と平助が心配しても、
「ちゃん、なあ、眠ってこうぜ。部屋なら別にちゃんととるから」
そう新八がなだめても、
「あのな、。このままでいられると俺としては嬉しいんだが非常に問題になるんだ」
しなだれられてしまい、身動きの取れない原田が困惑しても、
「――こうなったら無駄です。……無意味に活動的なので……多分勝手に帰りかねないかと」
が言うようにどうも効き目はなさそうである。
「あー、じゃあどうするんだよ?。かといってコイツ一人で帰すわけにもいかないだろ」
質問 なぜ?
答 極度の方向音痴だから。
「ですね。だから……」
嫌な予感がしたのは、平助。
ピンと来たのは残りの三人。
「「――よし、ありがとう(な)、平助」」
かくして、お見送り係と言うか、送り届け係は平助になった。
* * * *
続く
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