「一体、どういうことでしょう」
山南敬助は、困っていた。
夜更けも過ぎた子の刻。
仕事を終えてようやく部屋に入るところ……げっそりした顔の弟弟子とすれ違う。
「おや?お帰りですか。ずいぶん早いようですが」
中途半端な時間だ。
流石にこの時間帯であるのならば、宿泊してしかるべきだろう――そういう意味もこめて問いかけてみれば、
「が酔っちゃって……帰りたいっていうこと聞かないもんだから」
「ああ、なるほど」
大方迷子になることを危惧して連れてきたのだろう。
こういうところは、貧乏くじと思われるゆえんでもあるが――山南としては平助を面倒見のよい弟弟子として評価していた。
「で?そのはどちらへ?」
「それが……気持ち悪いからって厠へ」
「ああ。――大したことはないのでしょう? 胃の中のものを出せば収まるかと。それより午前中に稽古もあるのだから、君も早く寝た方がいい」
「あ、うん……」
「何かあったら私がいますから」
「なら」
よろしくお願いします。
平助は、そう言って出て行った。
とはいえ、山南も連日の会議で疲れきっている。の様子は気になるが待ってどうなるものでもないことは分かっていたので、布団を敷き、自分も睡眠をとることにした――
そうして半刻もすぎただろうか――
ようやく夢の世界へ、と山南が足をふみいれかかっていたそのとき、
「?」
人の気配で、目が覚めた。
がさこそと……間違えない――衣擦れの音がする。
――どういう……?
寝ぼけた頭で考えるも、殺意は感じないし、危険も覚えない。
第一ここは屯所だ。そうそう入ってこられる場所でも――
「っ、な」
思うとどうじに、ふりかえって、絶句。
「な、なに脱いでっ……」
後々、「誰もいなくてよかった」と、山南は心底ほっとした。
そう思うくらい、そのときの自分は悲鳴に近い声を出していたからだ。
だが、悲鳴など聞こえぬように、目の前の――は、いい脱ぎっぷりで着物の紐をしゅるり。といて、腕からすとんと、布を落とした。
――誘ってるんじゃないでしょうね。
と、一瞬本気で考えるも、相手の状況に、
「それはないか」
結論が出る。
だが――は明らかに寝ぼけていて……
「寒……」
だんをもとめるように、布団に潜り込んでしまった。
こうなると……
「どうして、こうなるんですか」
ここまで、状況がそろうと……
――かえって、冷静になるとはこのことをいうんでしょうね。
一気に眠気が退く。
一方、気持ち良さそうにぬくぬく布団をかぶりこむはもういっそ子供のような寝姿だ。
「……引きずりますよ」
当然、返事はない。
だが、拒否権はどの道ない。
山南は、夜更けになぜ?と思いながらも、布団ごと。そう、布団ごとをの部屋まで引きずって行った。
夜中も夜中だ。流石に、誰かに見られるような愚行は犯さなかったが――
* * * *
翌朝。
「え???? 何これ????なんで、山南さんのふと、」
――というか、なんで、部屋で寝てて、で、なんで、この人がにっこり笑って目の前に……
「何ででしょうね?」
にっこりと笑うのは、前日素敵に迷惑をかけられた山南で……
「布団、後ででいいから、綺麗にして、戻して下さいよ」
「えーと……わたしの、布団は?」
「ああ。のならば、私のところに代わりに借りましたよ?」
ちなみに、記憶を思い起こせないかといえば、そうでもない。
の記憶は半分くらいはあった。
「ぎやあああああああああ」
「はい。思いだしたようで、何よりですが……一応念を押すと何もしてませんから」
「う……は、はい……」
「流石にいきなり脱がれたときは、どんな誘い方かと思いましたが――その後、【く、くるしい】【お腹いっぱい】だなんてねぇ? 女性としての心構え以前の問題です」
「う……」
「取りあえず――もうしばらく、島原は禁止」
「えええ?」
「たまの休みです。こちらとて安眠をむさぼりたかった……」
「う……ご、ごめんなさ……」
「いいですよ。兎に角、――さっさと布団をもってきてくださいね」
「はい」とこたえるしか出来ない。
ちなみに、山南の布団をの部屋からもっていったところを、山崎に見られてひと悶着あるのは別の話。
もちろん、山崎からも暫くの島原行きは禁じられるのだった。
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