「いいか……」
「はい」
まあ、抵抗は――ない。向こうもどうかなとおもうが、任務だから気にとめていないだろう。
ただ……やりづらいのは若干後ろについてきている隊士たちの反応が明らかだからだ。
――恋人の逢瀬にみせかけろなんて……無茶ぶりもいいところなんだけどな。
かといって、断れなかった自分を呪うのは、斎藤とて同じなのだろう。
は、溜息をのみこんで、にこやかにほほ笑んだ。
まあ周囲からすれば「無理やり笑っている」「若干無表情気味」にしか見えないのであるが。
任務を任せれたのは、数刻前。
『あの馬鹿』こと、の友人=)がききつけた噂が発端だった。
曰く、――油小路に変態が出る。
どうやら、彼女は「おつかい」の最中に、それに出くわしたらしく……半裸で追いかけられたところ、どうにか羅刹隊に保護されたらしい。
「……ならば、羅刹隊が出ればいいんじゃ?」
「――もっともだ」
話を聞かされたときの、、斎藤の反応は上のようなものだったが、なんでも、土方がいうことには、山南さんが緊急要請として、近藤を通じて出してきたものらしい。
「でも、何故女装する羽目になってんの?私」とはの弁。
「女装というか、もともとの格好はそっちなのだろうが………………こう見ると……」
「何も言わないでいいです」
ぴしゃり。
言いたいことは分かっているから止めさせた。おそらく「女なのだな」という性別の確認だろう。
斎藤の考えは実にシンプルで読みやすい。
「話を戻しますが、何故男女の逢瀬だけ狙うと分かったんですかね?」
「からきいてないのか?」
「さあ。――面会を拒まれておりまして」
「誰にというまでもないな」
「そう。山南さん(あのひと)……軟禁って言葉しってんでしょうかね」
「聞くところ、も実際相当怖がっていたらしいから、無理に会うのも――」
「ゼッタイあの男(ヤロー)の、陰謀かと? ちゃんってそんな繊細でもないっていうか……この機に、を縛りつけておきたいっていう羅刹側の挑戦ですよ」
「――相変わらず、あの人と戦ってるのか?」
「舌戦ですが……の情報得るには、山南さん避けておかざるをえないんで。で――そうすると山南さんがこっちに文句言うっていうね」
「それより……男女の逢瀬というのは、どうも、が襲われかけたとき、二回とも路に迷いかけて、平助が手をひっぱったときだったらしくてな。それから、同じように、恋人といるときに限ってでる性犯罪者について、報告もある」
「へえ――(なるほど、山南さんは、平助とのことでってのもあって、を閉じ込めてるわけか)」
この緊急申請の大方の構図(もう変態のというより、山南の用意した構図にすり替わっている)に、は気づいた。
別に、だからどうというわけでもなく、まあ恋愛なら恋愛でやってくれ――といいたいだけなのだが、自分の非番が削られたことは若干ではなく、恨みたいところだ。
(かといってすぐ忘れる体質だが)
百歩譲って男女の逢瀬というのは諦めよう。
だが、この「手をつないだまま」の見張り、というのまで、山南さんの提案だとしたら、大した嫌がらせだ。
「ていうか、斎藤さん」
「なんだ?」
「油小路はいいけど、襲われかけたのってですよね」
「そうだ」
「調書は全部からの?」
「だろうな。藤堂は翌日から大坂だ」
「――………(長距離に飛ばされたか。可哀そうに)」
「……(おおかたの考えてることは読めるがあたってる……)まあ、そういうことだ」
いつもどおりといえば、どおりだが、恋人を装う手前もあって、言葉をいつも以上に省略する二人。
だが、もうそろそろ何週かしている。正直なところ、とてつないだ手が邪魔になってきたところだ。汗もかいてきたし――大体、斎藤にいたっては、帯刀している身。余計に邪魔に違いない。
そして、それ以上に、そろそろ此処の探索を止めなくてはいけないことがあるのだ。そうそれは――
「あの方向音痴が、そう簡単に場所を覚えてるとも思いません」
「調べ直すか?」
「はい。平助に聞いた方が早いかと」
「同感だ。では」
「はい」
まず、手を離そう。
するりと。
不自然な二人の「繋いだ手」が離れていく。
後ろは向いていないが、隊士のほっとする顔が浮かんでしまう。
「――ところで、斎藤さん」
「――何か?」
何かあるのか?
聞いてくれるのだから素直に答えようか。<は、開口一番、
「相変わらず寝てませんか」
疑問符つきのようで、それは断定だった。
「――こそな」
「手が暑かった」とそう――
どちらからともなく、結論づけて、再び屯所に戻る二人に対して――事情を知らない隊士たちは、「何かの実験」「鍛える新しい方法」と勘違いして、畏れたり、真似たり。
「真面目な隊士が多いのも困りものだ――というか、お前ら、せめておとり捜査だと分かるくらいでいいから、良い仲のふりくらいしておけよ」
のちに、「油小路ではない路にて変態を確保した」二人を前に、土方派頭を抱えたという。
END
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