|
「三千世界の鴉を殺し、ぬしと……」
「それ、高杉さんの……」
「ああ」
倒幕派の、な。心で付け加えて、佐之は、少女の指先を撫でた。
「いつだったか、あいつの女が歌ってくれた」
「……っ」
まだ知られてないとはいえ、色に通ずる者は知るのだ。その歌を。そう、佐之は笑う。
いけずやね、と返そうとして、少女は息をのんだ。
彼の目には、確かな色が浮かんでいた。
少女を――少女ではなく、女と見る逸れ。
「朝寝はどの道出来ないっていうのにな……」
それは、彼女が本命を――歌をくれた男を愛してるからだろうか。
それで、佐之は我慢したのだろうか。
ざわつく心をどうにか押し殺し、つうと顎の輪郭を統べる熱を感受すれば――
「なあ、」
その有名な芸子ではなく、自分の名前――。
ふつふつと肌が泡立つような、あるいはしっとりと濡らされるような堪らない声色で、告げるのだ。
「俺はもう、ただの男さ……。夜のうちに戻らねば危ないなんてことも……もうない。――だから、朝寝が出来ない理由なら、一つ」
「な、」
何ですか、と。
聞き返す息は飲まれ、男の酒を残した苦い舌が割り込んでくる。
「んっ……ふ」
――ただひとつ、?それは……
思考がぼやける手前、滑り込むのは彼の熱か、それとも――
「したいのは、お前とだけだから。――な、決まってるだろう?」
本音、なのか。
吉原の遊びに隠すは、仕事。島原の玩びに隠すは何?
ただ一つ、が掴んだ事実は、彼が朝寝を遊女にすらも強いたという事実。
水揚げから、そのまま貰い受けへ。彼がという鳥の籠になったという現実だけだった。
カナリアは、鳥籠へ。
END
別主人公でらくがき。
|