「えーと、獄寺様?」
これはなんですか?
何っていやいや、わかってるんですけど。
「あの……」
「見ればわかるでしょう」
敬語使われてもこまるんですが? いや 仕事のときのクールな姿すてきよねーって確かに内勤のこたちが騒いでいたけれど……
――私は知ってるんだよな。
ボス命だったり、意外と直情がたで、毒蠍の――ビアンキ様がくると逃げるとか。
――子供っぽいこと。
それだからといって、勝ち誇る気もないけれど。
仕事モードで、今さら接してもらっても調子が狂う。
もっとも直接のやりとりなんて今日が初めてみたいなものなのだ。
なぜなら――
「ええと…その、これはメイドのきる服では……?」
「そうです。貴女用に仕立て上がっていますよ。嬢」
――じょ、嬢って?!
柄じゃない。というか、やめていただきたい。
そもそも、分かっていてやってるのか(そうなんだろうけどさ)
「こんな服頂いてもこまります。私は――」
「ええ、ですから異動です」
「異動?!!ちょ、きいてないわ!」
「当然。行ってませんから」
「なっ」
しれっと。
獄寺様は告げて、何やら手元の紙を広げる。ブラッドオブボンゴレの印がついたそれは――
「正真正銘ボスの辞令だ。――分かってるんだろ?」
「っ ?! 横暴なっ」
「横暴なんかじゃない――。あの店首にして、代わりにわざわざ郵便局の仕事をまわしてやったってのに」
――やっぱり……
「やっぱりあれは、あなたの仕業だったのね?あそこのバール、気に入ってたんだから。急にやめろっていわれるし、かとおもえば、おかみさんが泣きながら【代わりにいい仕事が】なんて言い出すし。……ずっと不可解に思ってたんだから」
「……ちっ。」と低く舌打ちを一つ。
何の悪気もないように、獄寺「様」は、葉巻をすする。
そのさまが、さえない咥え煙草で来る【いつも】と違いすぎて、苛立った。
――最初からそうだってしってたら……
彼がまさかボンゴレの幹部だってしっていたら、私だって素直に諦めた。
きっと最初から近づいたり、あんなふうにしかりつけたりなんてしないで今頃は、あのバールで給仕につとめたに違いない。ボンゴレの縄張り(シマ)の片隅、サエないバールで。
――なのに……
いつ頃からか、夕刻にたまに彼がおとずれるようになった。黒いスーツのかわりに、なんてことのないジャケットと、咥え煙草。そうして、徐々に他のひとたちもおとずれるようになって――
今となってはわかる。急にわき出た客どもは、きっとあれだ。ボンゴレの構成員なんだ。しかも、幹部クラスだったり、その直下だったりの……
「あの店………上手くいっていたから――店にもなんの迷惑もかけなかったし、私たち店だってボンゴレにマイナスの要素なんてもたないようにしてたから……関わっていてもしらずにすんでたから、そのままあのときが永遠に続くんだって信じてたのに……」
「……こっちも、だ。あのまま置いとくつもりだったし、言う気もなかった。けど仕方ねぇだろうが」
「なっ、なんで?出入りがばれたわけじゃないんでしょ?だからおかみさんだって営業続けてるしあなた――獄寺様だって、まだあの店に」
「いってねーよ」
「なっ」
「お前がいないのにいってどうすんだよ」
「そ、なら、余計――」
まって?
その前に――私に会いにきてたとか?そんな馬鹿な……
「ちっ」
もう一度低い舌うち。
いたずらがみつかったように、ぶのわるそうに顔をそむける癖はあの頃のままだ。
「てめぇ、「様」とかいってんじゃねーよ」
「だって……」
「ボンゴレに入ったからか? お前が、勝手にな……」
「だって」
「なんで入ってやがる」
横暴だ。
たしかに、郵便局もいい仕事ではあった。
わざわざまわしてもらえるような部署でもないのは分かってる。
それでも――
窓口で山本さんが漏らした情報に、頭にきたからだ。
たしかめなきゃって思ったからだ。
あとはもう無我夢中、ボンゴレの門を叩いていた。
「気付いたら、ボンゴレ(うち)の内勤――しかも、山本の秘書だァ?……ざけんのも大概にしろよ」
「だからって、なんで、いきなり辞令?ていうか、メイドって?!メイドって……」
「着ろ」
「きゃあああああ引っ張らないでよ。何やっ――」
「獄寺【様】なんだろ? いうこと聞けるよな?」
ああ? と悪人ヅラをみせる彼はもうまるっきり「仕事の出来る素敵な右腕」なんかではなかった。
内勤の子たちに伝えたい。
悪ふざけをしててへたれでなんていうのは……まあある程度の場所までいけばみられる。けれど――
――この横暴さが発揮されてんのって、結局私だけなの?!!!
「……逃げんな」
「ちょ、ま――」
こじ開けられたワンピースのジッパー……肌があらわになった背に、吸いつく生々しい感触に思わずぞくりと震えが走る。
「何して――」
「マーキング」
「ばっ……ばっかじゃ――」
「山本管轄でいるくらいなら俺のとこにこい」
「いけるはず――」
ないでしょ?
無理やり乗り込んで……真意を確かめようとして、嫌われてるかもしれないっていうのに……平気な顔でいたのだって、普通に「さま」と敬語で接してたのだって精一杯なのだ。
――『獄寺、のこと心配して、この店にこないようにってしたのな。なのに俺らがずかずか食べに行くもんだから……
』
期待しか生まない言葉だったけれど。それでも本当かなんてわからなくて。分かったところで、近づいてしまったら最後本当に終わってしまうかと思ったから……。
――なのになんでいまさら……
しかも、なんでメイド?(雇用されたのは秘書としてだったはずだ。)
真っ当に仕事できるっておもわなかったから――そういうことなのだろうか。
それくらい馬鹿だとおもわれているのだろうか。
もしや、その能力なしのくせに幹部である山本の下にいることにいきどおっているのだろうか。このひとは。
「メイドが気に食わないっていうなら、別の仕事でもいい」
「別って……、でもだって、それなら、別に山本さんの下でもいいんじゃ?……」
「俺が見張れない場所になんで行きたがる?」
「でも、だって……」
「だってもくそもあるか。見張れる場所にいろっていってんだ」
とそう、もう店にいたチンピラそのものの、口調でいうから……
何も言えなくなってしまった。
いったいこのひとは誰なんだろうか?
腕利きのボンゴレの守護者?
冷静で誰より仕事ができるボスの右腕?
交渉役として有名で、本部詰めの女の子みんなの影のアイドルと化していた人なのだろうか?
……冷静?どこが……
大体なんでそんなに切羽つまって――
「それとも嬢、山本の秘書を務める貴女なら、俺の世話くらいわけがないとでもいうんですか?ならば、秘書だっていい」
視線にきづいてか、ようやく「いつもの」(ここ最近の通常の)彼に戻った獄寺様は、それでも、眉間にしわを寄せたままで……
ぬがされかけたジッパーと、肩越しにみる視線に急に……なんだか急に戸惑いを覚える。
敬語だから、じゃない。そうじゃなくて――
「――」
と。小さく呟く声がまるで子供みたいだからか。
意外と、弱いんですよ、とは、山本くんの下につくときまったばかりの頃ボスが告げた言葉だ。まるで、ソレは今の彼を指しているような――
――敬語なんて……
つかってほしくない。なのに、彼は此処ではそう言う立ち位置なのだ。
そして、私はメイドにせよ、秘書にせよ彼の傍にいるとしたら結局そういう彼を見ていくしかない。
――それがやだったとか?
浮かんだが早いか、あるいは、彼がまさかの解決策を投げるのが早かったか。
「ならば、いっそ――違う立場になればいい」
告げられた事柄が事柄だっただけに、考え事全てふきとんでしまったので――どちらが先ともいえない。
【 俺 の 専 属(こいびと) に な る の は? 】
敬語ですらなかったものの、懇願するような響きは事実で――
思わず頷いていた自分に、気付かなかった。
まずは馴れ初め。獄寺様の言うとおり……
to be continued……
そして次は ⇒NEXT
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