全容が明らかになったのは、葬儀の帰りみちだった。
結論からいえば若紫は――命を絶ったのだという。
遺言には、原田への報われぬ愛が綴られていたそうだ。
ソレは表向きの話。
「密偵がばれかかっていたらしい」
「…俺の、せい、か?」
「いや別口だ。だからこそ、命を絶ったんだろうな。アイツは、最後までお前のことを気にしてたが……遺言にのこす必要は本来なかった……」
「それをのこしたってことは?」
何を意味するか、さすがに分からない原田ではない。
原田は、自分という男をよく知っている。
吉原の女は原田にならばすすんで身体を差し出す。
それは「束縛のない夢」だからであるが、男どもからはそうはうけとれまい。
一瞬の夢をあとくされなくくれる男を――吉原の女が求めざるをえないから、原田に逃げる事実を――他の男はしらずと、原田はしっている。
若紫はそれを利用したのだ。
「もてる男に本気になって命をすてる遊女は多いからな。ただの色恋の延長で、うっかり口をすべらせたととるだろうよ」
「そして、俺は【女】を何より大切にするってことはあちらさんにもばれてるってことか」
「そうだ」
それは原田自身の弱さであり、よさでもあった。
だからこそ、土方は――原田の機転や技量をしっていても、諜報や女をつかった密偵の類の仕事を与えてこない。
原田自身いざとなれば斬る覚悟こそあれ、それはおとこどもにかぎってのことで――女子供はごめんだという信念のもと生きている。
その態度は敵とてある程度よんでくるだろう――若紫はそこを利用した、と。
土方は言うのだ。
だが、同時にそれが真実若紫の思いでもあったと……。
「――要するに、「密偵」としても、「女」としても、さの……お前を信頼したんだよ」
そのひとこと――違和感はそこにあった。
「これが、あいつの残した書きあきだ。お前あてだがすまない……改めさせてもらった。やつらのみた痕跡を確認するためにな」
「ああ……」
そりゃ仕事だ。しかたあるめぇ。
いいながら、手を伸ばし――
――ああ。
気付いてしまった。
「あいつ、本当にお前のこと気にしてたんだな……」
苦笑する土方の気持ちも――分からなくはない。
だが……
遺言に、添えられたは一つの唄。
それから、「後朝の唄をよんでみたくとも、できぬ立場だったから」とのことば。
「後朝(きぬぎぬ)がわりにか。若紫といわれるだけのことはある……」
申し訳なさそうに今日は休んで構わないと、そうーー告げる土方の横顔。
――違う、そうじゃない。あいつは……
原田は言葉を飲み込んだ。
「無理はするな」と叩かれる肩。
――まさか。まさか……
こんな形で知ることになるとは。
後悔は別の形で沁み入り……うめき声になってあらわれた。がそれは、「彼」には届かない。
「――すまなかった」
更にこめられる思いに、憤りの念がよぎるも……拳を硬く握るほか、原田に出来ることはない。
添えられた唄――
徹底して「密偵」をやりぬき、先に逝った事実……
まさに恋ひだ。誰にも知られぬ秘する想い――
――相手が俺なら、死をえらばずとすんだんだっ……
愚か、あわれ若紫の想いに、「源氏」は気付かない。
そのままに、若紫は枯れていく。
なぞらえたかったはずなどない。しかし、彼女の残した意思を曲げるようなこと……原田にはできなかった。
女を理解し、女に一時の夢を求められる自分。
――その俺には、そんなことできようはずがねぇんだよ……
だから黙る。
ただただしゃくしゃくと……置き去りにされた砂の道を歩みながら、ひたすらに歩む。
遺言に描かれていた唄はいちじき其処かしこで聴かれたものだ。
一説にはとある攘夷志士が創ったともいわれる。
遊女の心をとらえて離さなかった因も、原田にはよくわかる。
【三千世界の鴉を殺し、ぬしと朝寝がしてみたい】
その前に去らねばならぬ遊女と、愛しい男のひとときを歌うそれは……さらずと朝寝を――はなれずとそのままの関係を保てた原田との関係を歌うはずもないもので……
仮にも、あの若紫が独占欲にかられよう姿は残念ながら――好かれていると今日まで思いこめていた原田にも浮かばなかった。
むしろ、その関係は――かの浪士と反対ながらも、一つの理想のために女を遠ざけるある人を思い起こさせるもの。
――そりゃあそうだ……。
源氏のようだと、噂されていたのは、自分ではなく――まさに鬼の副長、土方そのひとだったのだから。
若紫の相手ならば、当然東野中将ではなく、源氏に違いなかった。
「………っ」
朝方、泣き寝入る顔にどうしてこんなに胸が傷むのか――もう分かりたくもない。
深く考えぬように、といいながらも、こんなにも辛いのはなぜなのか。原田はもう知っていた。
同情はとうに育ちきってしまっていた、そんな今を――。
END
事実は知らされた。一番知りたくない形で。
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