◇ うたかたの…… ◇

「なあ、認めろよ?好きっていっちまえば、俺はお前のためになら……」

「駄目。――ぬける、なんて許さない。私は、あなたが」

「新撰組だから、か? 原田っていうやり使いに惚れたのか?」

「ちがうだろ?」と、指先が首筋を走る。

――流されてしまう――このまま、では、そのまま……。

は着物の端を浚い返し、距離をとろうと俯いた。

「ズルイ人」

「知ってる。――大人だからな」

でも、お前は知らないだろう? 
せつないような声は、作っているのか本気なのか。

「ずるく回り込むようなやり方しても――お前を逃したりなんてしたくないんだよ」

『俺は、そう言う男さ。願うのは、可愛い妻と子供を得て優しい生活をするだけ』と……
夜にのせて、囁いたあれは、本当の願望だったのだろうか。

――だとしても、もう……

振り払うしかできないのは、彼の志を……見てしまったから。
佐之と……そして、あの――


「ごめんなさい」


指先が一つの恋の終わりを告げる。
その目には彼しかいないのに。強烈に、あの後ろ姿が焼き付いて離れないのだ。

愛してるのは、一人。
けれど――


「……戦って……佐之さん」

………お前の、望みは、それか?」

「うん。佐之さんが前を走るのならば、私も走れる。けれど、此処へとどまるのなら」

嘘だ。
走れるだろうは、新撰組――そして、あの、鬼。自分は走れることも、止まることもできない。けれど……


「やりを振るう佐之さんが好きよ」


女をまもる強さよりも、何かを見る眼差しを――彼女は知ってしまったのだ。
佐之も、もつ、もう一つの眼差しを。
そして、それに恋をする前に決別する――そう選択した。


「――見ていないだろう?」


「そう。見ていなくても」


「見ててはくれないのか?」


そのまま、島原を足抜けし、組を抜けぬ自分についていくこともまた選択なのだ(きっと近藤はそれをゆるすだろう)
と、そう、佐之は問うている。
分かる、分かるのだけれど――


「もう、恋は、したく――ないの」


「そっか」


「島原の夜はいつも、夢。お互いに、いい夢を見ていた―――」


「ああ、そうだな。――とびきりの、夢だった。一番上の、命をささげてもいいと思えるような、女がいたんだ」



「―――――さようなら」


「何、また夢で会えるさ」


うそぶいて、佐之が去っていく。
その姿を見ることも敵わず、遊女は涙を流した。
愛したのは、この男か、それに気付かせたあの後ろ姿か――それとも……
答を出すのは止めておこうか。どちらにせよ、夢なのだから。

END

別主人公でらくがき。