女王様     :【SIDE KING  K・A】

【SIDE 跡部】

「今日は随分遅いじゃない?」

 部屋に入るなり声をかけられる。
 予想通りここはの牙城なのだろう。
 生徒会長はどっちだ?とぼやくの顔が脳裏に浮かぶ。
 ――それより、どうでる?
 一度覚悟を決めてしまえば、嫌味なくらい冷静な自分がいる。
 は、食事のチケットを手に、内線でシェフを呼び出している。
 
「……何にする?」

「あ、ああ……」

 そうか、このチケットの中身は形ばかりで、実際オールマイティなのか。
 咄嗟に出てきた注文はどうしてもらしいというより……

「ローストビーフ」

 自分の趣向に偏ってしまった。
 神経質になりすぎるのもどうかと思う。
 だがが「ふうん」と頷き、「ま、いいけど」と注文を流した時、額の横に走る汗を感じた。
 この女が苦手だ。
 それは直感だった。
 付き合いは、ほどじゃないがあった。
 だが最初から濃くなることは避けてきた感がある。
 それは、が俺からコイツを遠ざけてきたからかもしれない。
 あるいは向日が。

「今日はずっと変。可笑しいのはいつものことだけどどうしたわけ?っていうかね、はっきりいってこういうのはどうかと思うけど、

 ――訂正。
 ずばり切り込んでくるこの姿勢は生意気で勝気だがちょっと違うんだよ。俺が好きなタイプの強気ではなく、どちらかというと人を推し量って距離を考える……忍足に似た部類の計算が見え隠れしていて、嫌なのだ。正確に言えば「苦手」ということになる。
 は静かにそれだけいうと、

「また誰かと遊んでたの?」

 と、切り替えした。
 ――夜遊び、か。
 が実際どのくらいの頻度で遊んでいるのか、そもそも相手が男か女かまでは俺とて把握していない。(早い話どっちでもありえるのは分かる。のことは相当気に入っているし、取り巻きの女にもあの態度だ……男は……諮りかねるが忍足がある程度「かわいがられてる」ことを考えればありえなくもない)
 趣味は被るし酷似もしている。
 さて夜遊びのレベルはどうだ?
 それをそもそもに言うかどうかという問題もある。
 少しだけ考えて俺は答えた。

「そんなわけはないだろう。お前一筋だからな」

「さあどうだか。男でも女でも」

「男はないな」

 スキャンダルはご法度だ。
 それに、そんなにセクシャルな話を軽く冗談にするとは思わなかった。俺自身が「からかうため」ならまだしもしないだけに――してスキャンダルになったらまずいからというのもある――軽く否定したのだが……流さなかったのが問題か。
 一瞬、食事できるスペースを確保しようとプリントをどかしていた藤堂の動きが止まった。

「……君、誰?」

「っ」

 対応が遅れたのはその目が怖いくらい真っ直ぐに、こちらに挑みかかってきているから。
 突然こうくるとは思ってもみなかったせいもあり、自分が反射的にびくりとしてしまったことを悟る。

 なぜ、【他人】だと断定できるんだ。
 その疑問もあった。

 ――普通は、「可笑しい原因」を追究するところだろうが。

 なにかんがえてんだ?この女、と叫びたくなった俺に非はない。
 そこまで自分の思う像は確実なのだろうか。
 まるで一心同体のように……。
 婚約者にばれるんならまだしも……と悪態もつきたくなる。


 ――実際こっちが本命ってのはマジなところなのかもな……


「……わかるわよ。君はじゃない」

「それは……」

「なんでに似てるの?……影武者の話まではきかされてなかったわ」

 【影武者】そうか、その手があったか。
 話はあわせるに限る。
 さっさと暴露してしまおうと、口をわりかけたそのとき、唇を封じるように、その恐ろしくごのみな指先(真っ白で、しかも細いうえ、無加工の爪が自棄に整っている)が俺の口元に当てられた。
 容赦なく、続けられる。

「しかも――男」

「っ……」


 まさかこのタイミングで見破られるとは思えなかった。
 なぜなら、常識的でないから、だ。
 だが、現に今ばれている。
 くだらないことを考えている場合ではない。

「そんなはずがないだろ?私の姫君」

 何とかごまかすことも試みるが、

「わかってないのは、君ね。……は、違う。女よ。ああ見えて誰より女を知ってる。そっちは、分かったつもりでしかない。――足りないわ」
 
 ――だから、男、か。
 万事休す。

「守られの姫ってわけじゃねーんだな……」

 演技をやめる。
 
「さすがはの姫だけのことはある」

「あえて似た調子にしなくたっていいのに」

「これは素だ。身体は兎に角似てるといわれるのにも慣れてる。――これで誰だか想像がつかないお前じゃねぇだろ」

 はいきをのんで、「でも」だの「まさか」だのと悪あがきをしている。
 言い当てておいてこれだ。
 しかしそれこそが通常の反応だと気付けば、声をたてて笑っちまいたいくらいだ。

「アーン?」

 リップサービスで、たまにがひきずられてやる俺の真似を加えた。
 頭を抱える

「……そこまでしなくても……」

「分かるんなら話は早えーが……まあ納得したくねぇのは俺も同じだ。に電話しろ。安心していい。俺らがくんでまでお前を騙すメリットはない」

「……――ええ。といいたいところだけれど、遠慮させて。……しばらく一人になっていい?」

「駄目だ。時間がない」

 納得できるもできないも、してもらわなければ話が進まない。
 このチャンスを不意にする優しさはあっても、こいつならば……という気持ちもあるのだ。配慮などせずとも、コイツなら立ち直れるだろう。ならばここで待つのは時間の無駄。
 それでいい。

「――わかった……、本家、はまずいでしょ?……運転手?くらいかしら」

「秋本と、それから別邸の給仕、だな。小林だったか?」

「分かった。それよりも手っ取り早く【跡部景吾】に連絡すればいいわけね」

「……ああ」

「中身が【】の」

「そういうことだ。
 ――話が早くて助かるぜ、【】よ」

「ふざっ」

「この身体(ナリ)だ。そう呼ぶほか選択肢はないぜ?」

 は「……虫唾が走るっつーか頭が痛いっつーの……」と文句をいいながらも、その場で携帯のダイヤルを操作し始めた。
 どうせ、短縮だろう。
 思う間もなく、【俺】が出たようだ。

「もしもし【】?どうなってんの……本当」

 ――クイーンを手に入れる。
 チェックメイトの極意とはそういうことだ。
 これがチェスならゲームセット手前。
 だが、それすら劣りにするえげつないやり方だってある。
 もしかしたらここが本当のスタート時点になるのかもしれない。
 俺はほっといっぷく……流石にタバコはやめてるのでかわりにテーブルの上の珈琲を拝借した。

「ちょっ、ふざけないでよ!それ私の」

 ……なにやらこっちに文句を言われた気がするが無視する。
 あとの面倒な解説はコイツの王子さまにやらせるのが妥当だ。
 折角ばれたのだから俺は俺で、つかの間の休息を楽しんでいればいい。王の任務は待つことと逃げること、それだけなのだから。

 TO BE CONTINUED……
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そのまま跡部SIDE。遅くなりすみません。 ストックあげそびれをまず……。