薔薇のチェックメイト      〜序章 最初の出来事(三人称)〜

 合同学園祭が無事に終わり、季節は秋。
 生徒達は各々の学園で、時間割通りの生活を送っている。
 変わったことといえば、姫宮の女生徒の数名が氷帝生と付き合いだしたり、友達になってメールだの電話だの、跡部との写真だの……を交換しだしたこと……
 そして――

「よぉ、

「跡部か、久しぶりじゃないか?」

「こっちは生徒総会が近いからな、学園祭は引継ぎへの序曲にはなったが、実際はそうはいかねぇ。まだまだ手間取ってんだよ」

「は、それはご苦労なこった。――こっちも似たようなもんだが」

「だろうな」

 両校きってのスターが抜けるということで、生徒会が以前より頻繁に関わりをもつようになったことだ。

「今日ははいないのか。姫無しの王子様(お前)の来訪は珍しいだろ?女どもが群がるぜ?」

は風邪で休みだからな。何、お前といれば問題ないだろ?」

 どうやらは寄ってくるファンを追い払う副会長がいない分、跡部にも苦労を分けようという腹らしい。

「虫除けにはなれないぜ。かえって周りがうるさくなる」

「いや」
 大丈夫だ、とは視線を左後に傾ける。 
 示された生徒会室のドア先には同じくらいの背丈の人影がある。
 男子生徒だ。
 無造作風に髪をなで付け、敢えて丸い眼鏡を装着した彼は外のファンに向かって何やら一言投げ掛ける。すると先ほどまでざわついていた女生徒達がにわかに静まったように見えた。

「ほらな?」

「あの馬鹿――」

 振り向きざまに花をまき散らすその眼鏡野郎に、頭を抱える彼の部長(多感な十代)
 それを余所に彼のアイドルは、楽しそうに微笑んだ。

「私のオッカケだというのも驚いたが」
 結構気に入っている、ということらしい。

「付き合ってんのか?あれと」
 テニス部では天才呼びしていても、普段――とくにの前では「あれ」扱いの彼、忍足侑士、またの名を親衛隊No.2ダテ眼鏡。若干どころか相手にはどこまでもキャラが崩れている彼だが多少は報われているのか。

「ファン気質が抜けたら考えてやるさ」

 いや、報われる日はこないかもしれない。
 早く脱ファンしないとやばいぞ、侑士―ダテ眼鏡。王子様スマイルに萌えてる場合じゃない。
 ……とそれはさておき、忍足もだいぶなじんでいるようだった。
は戻ってくる彼に「助かる」と素直に例をいい、跡部は嫌そうな顔を固めて、
「仕事に戻れ」
 指示を出す。
 一応は生徒会補佐の名目があるのだ。

「ほな、すぐ戻るからよろしゅう」

「ああご褒美も考えてやるよ」

「せやから許可とってこいって?きついわ様。あの先生めっちゃ厳しいんやで」

「忍足、てめぇにだけだろ。去年バレンタイン受け取り拒否したらしいからな」

「それは言わない約束やん」

 いつもならばこれに姫ことが加わって――どさくさ紛れにその赤い髪の幼馴染みが顔を出し、自称親友の滝や使い走りにされる日吉が部活後に尋ね……なんのかんの盛り上がるのだ。
 それから後一人……

「――がいなけりゃ帰りはアイツが迎えか?」

「まあ名目とはいえ婚約者だからな」

「ああ――忍足と付き合うにせよ、厄介な婚約者がいる、か」

「まあな」

 その名前を鳳長太郎、にとって一つ下の弟のような幼馴染みだ。あるいはだったというべきか。

「可愛げがなくなって男になってきたからな、ややこしい」

「なんのかんの懐柔できてんなら平気だろ。自分のとこの先輩に逆らうやつじゃねぇ」

「テニス部の強さの序列か。忍足はあれの先輩だったな」

「まあ、時限設定での付き合いはかえって残酷かもしれねぇ」

 名目で長太郎にきめたにしても、ゆくゆく拒めないことは分かっている。
 ましてや長太郎は本気なのだ。彼に対し恋情はないが家族的な、親戚としての愛情があるのは質が悪かった。

「それにまあそこまで私は忍足を知らない。ヤツよりはまだ跡部、お前の方がいい」

「共犯にはだろ」

  答えながらまんざらでもないのは似た境遇の――跡取りとして共感するところが多いからだろう。
 とはいえ、跡部とて後輩の恋に水をさす気はないのだと思う。

「なら乗り換えて見たらどうだ?泣きじゃくる鳳を捨てて」

 意地悪そうに笑ってみせた帝王様に、は無言で全く同じような笑みを返した。
 その勇気はまだないのか、あるいは変えた方がマイナスとしっているのか。
 何にせよ跡部とこれ以上関わるのはよくない、とふんでのことである。

「お前相手だと明日にも結婚となりかねない」
「それは勘弁だな」

 ――同意。
 つまりそういうことだ。
 だが、この時点で二人はしらない。
 どんな結果になるにせよ、二人はこれまで以上に親密な関係を強いられることになる。
 この日から約一週間。
 そう、次の瞬間忍足がこの部屋のドアを急にあけて入り……そして、そのドアがにあたりかけ…………跡部がかばったその瞬間から。
 二人の頭がわずかに接触したとき、その奇跡の時間は始まったのだ。
 薔薇のチェックメイト――
 最終結論までの、にわかの序奏。
 
「あ?」
「アーン?」

「すまん!!跡部……平気か?」
 二人ともすまん、ほんまに無理せんといて、保健室の先生呼んでくるわ……とそう、忍足が何にも気付かず、焦って出て行ったその瞬間……

 そう、二人が入れ替わってしまった、その時間から。