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帰宅すると――というかの家につくと、が一人で使っているという離れに向かった。
何度か訪れた場所だったが、住むとなると勝手が違う。
どこに何があるのかちゃんと理解し、慣れておかねばならない。
八畳ほどのベッドルームと、簡易の台所に風呂場。
客用の寝室と、居間とをあわせれば立派な一軒屋である。
こちら側だけで暮らせるといっていた意味はよく分かった。
鞄を放り出す前に、明日の授業日程を調べ、適当に用意を終えた。
念のため教科書を開けば氷帝の範囲よりも若干英語が進んでいるようだった。
――……それより実際女子校潜入の方が俺としては厳しいが……
ため息をこらえ、教科書を元に戻す。
文句は言えない。
10日間で何とかなるとあたりをつけたものの、戻れるかどうか危うい部分もある。
となると、欠席しないに越したことはない。
もでうまくやってくれるだろう予測もついているのだ。
「……アイツ……無茶しないだろうな……」
勉強や、生徒会の仕事は問題ない。
テニスも――させて平気だろう。当然自分よりは劣るから問題あるといえばあるのだが、学校のコートでせざるをえない機会はないので、やったところでうち(跡部家)の庭かジム……。とすれば、誰かに見られることもないという計算が働いている。
他普通の授業は体育や音楽含めて……彼女なら任せても怖くない。
「問題は……」
――テニス部員(あいつら)……か。
それだけが気掛かりだ。
も、こちらから知られないようストップをかけた手前ばらすことはしないだろうが、樺地や日吉、最悪向日と宍戸も何とかなるとして……鳳や忍足にばれれば、貞操の危機である。
……というか、鳳はむしろばれないときのこちらの身(の身体)の方が危機感を覚えるのだが、忍足にいたっては、これくらいの珍現象軽くのりこえてたとえ跡部景吾という身体(外見)であろうと、迫るくらいのことはやってくれる気がする。
それくらい、自分から見た忍足の、この身体の持ち主――への思慕は異常だった。
「どこがいいんだ?アーン?」
確かに……と、徐に脱衣所に向かい、鏡の前に立つ。
どうせ風呂に入らねばならない。
制服のスカーフを横によけ、新しい歯ブラシ(念のため)やブラシ、香水を確認しながらちらりと手に入れてしまった身体を見れば……
「脚か……」
入浴の為にその流れで、スカートのファスナーをおろしつつ、目に入る鏡ごしの光景に変に納得がいった。
忍足は知る人ぞ知る脚フェチである。
部室でやたらそれについて語っていた経歴を記憶の中から引き出せば、なんてことはない。分かりやすい理由じゃないか。
何せこの身体ときたら、身長の都合上、自分と同じとまではいかないが、すらりとした脚にスレンダーな線が強調されていて、よくよく見れば性的な意味でも惹かれるものがある。(今は自分の、だから、そういう感覚は全くわかないうえ、以前も「」という強烈な個性のせいで見落としていたが)
ついでにいえば、顔も……自分が入って大分変わってしまったように思えるが、根本的な部分がよく自分と似ていた。
鼻だちのすっと通った西洋風の小顔に、普通とは色合いの違う瞳……極めつけは口元の黒子だ。
男装の麗人となりそうな中性的な魅力には自分より若干長い睫が映えて、非常に印象的だ。
唇の赤さは、皮肉げにカーブを描くと増すように思える。
自分の髪は若干天然で亜麻色のようなミルクのきいた茶がさしていたが、こちらは微妙な赤みを有していて、なのにそれが何とも自然なのだ。
「惚れる要素ねぇ……」
女が放っておかない美形、として、女子校に君臨する彼女だが、むしろ男性をひきつけるとどうして気付かなかっただろう。
ちなみに、そうこういいながら自分が流石に他人の、しかも顔見知りの……異性の裸をみるのは忍びない……と、違和感を覚えたのは、実は下着に手をかけてからだった。
それほどには、ちゃんと女性でありながら、男性的に思えてしまうイメージ……精神の持ち主だったということで、本当に不思議だ。
――…こうみると……
「鳳が躍起になるのも分からなくもない、な」
失礼して、マジマジとみてるが、ちゃんと出るとこは出ているし、肌も陶磁器のように艶やか。
――公式の場であったことがないと、さっきも思ったが勿体ねぇことをしてたかもしれないぜ。これは……。
下世話だな……と思いながら、そこまで飢えていねーよ、と自分に突っ込みをいれながら、初っ端の困難だと予想される事象はあっけなく過ぎた。
直ぐ後でトイレにいくときにむしろ悩むことになるのだが、女性にそこまで疎くなくてよかった……と本気でこのときばかりは思った。
いまや自分がなので自分相手にさすがに興奮はしないが、後で思い出すのは勘弁願いたいところだ。
仕事上のパートナーみたいなもんだから。
……が、そう言い聞かせながらも、既に、この身体ではどう抱かれるのか想像してしまうあたり、いかに自分が男が思い知らされる。
「そんな機会はこない、か」
そういえば、鳳が押しかけてくるかもしれないといっていたがどういう意味だろうか。
入浴をおえ、眠りにつく手前、思ったのはその機会を得るかもしれない(ないしえている)彼女の婚約者について、部活以外の顔を予想してみたが……イマイチ分からなかった。
――確かにアイツはよくわからねぇところがあんだよ……
宍戸なら分かるだろうか。
きくにせよ、今この身体では無理だ。
その前に、をいかに巻くか考えねばならない。
対策をねることは山ほどある。
ベッドに横になりながら、いろいろ考えるうちにいつの間にか寝入っていた。
予想以上に、参っているらしい、と気付くのは、わりと平気そうな自分の顔したがわざわざ起こしにきたときだった。
TO BE CONTINUED…… |