d2 Pawn → d3 〜次の手〜     :【SIDE Prince】

【SIDE 】 

 昨晩から今朝にかけて……思ってた以上に淡々と時間が過ぎたような気がする。 
 ちなみに困ると思われたトイレと風呂だが、排泄はさすがに勝手が分からず最初こそ戸 
惑ったものの、風呂は正直なところ楽しかった。 
 困るどころか、跡部のこの身体は綺麗で細身に見えて筋肉のつき方が結構すごい……。 
 面白いと関心した。 
 ――長太郎も堅かったが……。 
 この絞り込まれた身体はそれ以上のトレーニングの賜物に違いない。 
 ひとしきり感動した後、丹念に磨いてアイツに似合う香りを選んでから寝た。 
 結局選んだ香りはつけなかった。 
 というのも、朝のジョギングを考えたからだ。 
 跡部の、身体を保つ為のトレーニングが日課だというのならば、私が入ったために、怠るのは忍びない。 
 肉体美に促されたわけではないが、ごく自然に私は日課をこなし、その分すまないが一つだけ……いつもと変えさせてもらったことがある。 
 香水のセレクトだ。 

「甘めなんだよ」 

 夜選んでおいた香水はいつもの跡部のもの――跡部のチョイスはわかりやすい――とは似ているようで違う。 
 もっと似合うだろうものをチョイスしたのだが……それ以上に…… 
 ――跡部が使っていたものだと、なんだか跡部に包まれているような、妙に落ち着かない気持ちになるんでね。 
 恋ゆえだ嫌いな匂いゆえだとはいえないが、兎に角「不自然」に感じたのだから仕方ない。 
 事実、シャネルからサムライに切り替えた途端、身体が生き生きしてくる。 
 きりっと引き締まるのならば、これで十分だ。 
 無為にパーティー用である必要はない。 

「……パーティー……か……」 

 ――そういえば…… 
 一つ気にかかるイベントがある。 
 急いで跡部(本体の方。今私になっているやつだ)に連絡をとらねばならないことだ。 
  
「お見合い……とはいかないだろうが」 

 昨晩母親(跡部の、だ)から、伝言で、今日のパーティーに代理として出るように仰せ仕った。 
 昨日の会話を思い出すに、きっとうちといい勝負で跡取り視されている跡部景吾ならば、その意味の示すところは明白だ。 

「そう、古臭い考え方の人たちとは思えなかったが……」 

 うちがさっさと決めたからか、息子に特定の相手ができないからか……兎に角焦ったのだろう。 
 適当に誤魔化してあしらうことは得意な分野ではあるが、跡部自身にも聞いてみたい。 
  
 ――ついでに、気は進まないが長太郎とのことはもう少し説明するべき、かな。 

 婚約者、は名目上。 
 かといって何もない仲でもなければ、むしろあって然りなのだ。 
 そのうえで、私は絶対に長太郎を選ばない。 
 勘の鋭い跡部ならば分かるかもしれないが、女の身体の非力さと、長太郎の狡猾さが計算に入っていない可能性は高い。 

「七時か……」 

 この時間ならば家を出ていないだろう。 
 インターフォンをならし、急いで田中を呼び出す。 

邸まで」 

 いわずと知れたことに、田中は静かに頷いた(うちで雇いたいぐらい、忠実だ) 
 ヘアスタイルを最後に一度確認して、大分見慣れたこの顔を気味悪くゆがめた。 
 跡部を崩したかったわけではない。 
 私でなければ、ならない表情がある。 
 その事実を確かめたかった。 

 ――似ていて否なる存在。 

 今頃跡部も感じているのだろうか。 
 自分とはあまりにかけ離れている性を。 
 それでいてそっくりな表情が出来る自分たちを。 
 数十分後、合鍵で邸離れに入れば、不安もないように眠る跡部がいて……ほっとしてしまった。 

「おい、起きろ。……起きろ、跡部?」 

「…………アーン……?」 

 寝ぼけるのも健在か。 
 文句の一つや二つもやりたいが、今はそれどころではない。 
 気持ち悪いほどくつろぎきっている自分の顔を見て、笑いがこみあげないよう我慢しながら、その身体を起こし――そうできた自分自身(跡部)の力への驚愕をなんとか堪える。 

「話をつめるぞ……」 

「あ、ああ」 

 声がこわばったかもしれない。 
 少しだけ男が羨ましいと思ったせいだろうか。 
 あるいは、女を知らずに居られる跡部への恨めしさゆえだろうか。 

 ――何にせよ、この分だと長太郎のこと含め、いわざるをえない…… 

 女ならでは、の秘め事は、酷く気持ち悪く……普段利用できる立場の私としても出来れば遠慮したい。 
 が、それでは逃げ切れないこともあるのだ。 

 ――例えば私が今日の見合いを、どう処理していいかわからないように。 

 くだらないことに時間を割くのか、とため息をつきながら跡部が目が覚めるのを待った。 
 その間だけはやけに落ち着けるように思えた。 
 なんのかんの、昨晩から……淡々と……それでも不安だったのだろうか。 
 いまだにわからない。 

 TO BE CONTINUED……
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鳳ブラック……というわけでもなく……詳細は本編二周目及び補足説明ページ……及びチェックメイトでもそのうちちゃんと出しますのでそちらをどうぞ。