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【SIDE 】
長太郎のことも話すつもりが、パーティーの件で手一杯……。
もう目の前は姫宮女子だった。
――しまったな……
感傷的になるより先に、たとえ私の身体であっても跡部に間違えが起こらないよう、長太郎のことは言うべきだった。
一応、忠告はした、とも思う。
――だが……
実感として、その身体の柔さに気付くのは多分ずっと後のことだ。自分がトレーニングを終えても、何故元の身体に比べて消費していないのか、まだ納得がいっていないように。
「景吾様……いえ、様……よろしいですか」
「ああ。朝練習の後半は間に合うだろ。裏に付けてくれ」
兎にも角にも「跡部景吾」を演じる他ない。
幸い、曲者は芥川程度で、残りについての心配はしていなかったし、芥川ならば朝練などきていても寝ているに違いないと踏んでいた。
門に向かった私――跡部が入っている「」の後姿を見ながら、「何とかなるだろ」とひとりごちた。
――相手となると、初日にばれる可能性は高いが……
実はこっそり予想していることがある。
それは、が私が私でないと気づいたとしても、恐らく彼女は口にしないだろうということだ。
たとえ私自身が可笑しくなったとしても……多分彼女は言わない。
そのスタンスは無関心なのではなく、あくまで私のためだ。
プライドが高い私は、頼れといわれて頼れるはずがない。
は知っている。
――跡部も同じ扱いであってる……
だからこそ、初日もしもばれてしまったにせよ、跡部が驚愕するような自体にはならないだろう。
……と、そうこう考えるうちに、氷帝の裏門に車が到着した。
* * * *
部室の鍵は樺地が預かっている。
状況を真っ先に知らせるべき相手だ。
彼の通常よりも遅いが、何しろ「真面目な跡部様」だ。
いくらでも誤魔化せる。
「跡部、珍しいじゃん?何だよ、生徒会かよ?」
急いで着替えを終え、レギュラーコートに入ると早速向日がお出迎えだ。
「まあな。……それより、引退したからって選抜もあるんだぜ?怠けてんじゃねーよ。特にお前はスタミナがないからな。今のうちに精進しとけ」
はっ……と、笑い声を漏らし、嫌味たっぷりに言う。
やりすぎなくらいでいい、と学んでいるのは、経由で聞いた向日本人の愚痴のおかげだ。
「遅れてきといて、それかよ」と、可愛い文句がとんできたが、これはいい。
――跡部は認めてるやつにしか意見しない。
私以上に、はっきりしてる。
仮にこれが私で舞台が姫宮なら、適当な部員であろうとなかろうと取りあえず口は出すだろう。
無言で認めてもらうスタンスは女子には通用しないことが多い。
正直、こっちの方が気楽なんだ。
問題は、それに見合った腕前が今私の手でみせられるか、だが……これはどうしたものだろうか。
跡部の情報では、朝は下級生中心に組んでおり、指導が主。
午後も自主トレは「ジムでやる」と断って帰れば、テニス部とノータッチでも構わないということだ。
――後は下級生が相談にきたとき、だが……
来るとすると、樺地……これはばれてもいいから除外。
次が日吉……
「この辺りが考えもんだな……」
と……視線の先でこちらを意識している当人を確認する。
目があい、一瞬で逸らされた。
――下克上か。
相変わらずだ。
日吉とも、少なからず交流はある。(ほんの少し、なので、支障はないが)
知られてややこしいことになるとは思わない。跡部の黙認もある。
――が……まずは様子見だな。
こっちがよくとも、あちらは新部長としての立場がある。
大変な時期に巻き込むのはよくない。
残り、新レギュラー候補たちは、宍戸と向日が意外にも面倒を見ている。
なんのかんの下級生受けするのは、跡部か忍足のようだが、直接の指導員としてのあの二人は相当の人気らしい。
「宍戸先輩!よければ一本お願いします」
「おう。後でな長太郎。慣れねーやつを何とかする方が先だろ?」
「はい!」
――長太郎にも懐かれるあたりが……
宍戸の裏表のない人の良さを匂わせてくれる。
そこがかえって、日吉のようなタイプからすると恥ずかしいようだが……
「……あっちは任せておくか」
――長太郎には極力近づかない。
正直なところ、ばれるばれない以前に、跡部との距離で一番図りかねるのだ、長太郎は。
嫌いであることはないが、なんというか……少し「遠い」と思う。後輩と先輩というより、部長と、他……という微妙な区分に見えるのは私の気のせいだろうか。
――そういえば、アイツの口から跡部のことをきいたことはあまりないな。
とんできた一年の球をラケットで避けて返し、
「日吉」
そろそろ止めておけ、と合図を送りながら、記憶を引きずり出す。
長太郎の跡部についての言及……一つだけ思い出すのは「跡部部長を選ぶんですか?」という、あの日の言葉だ。
「否定はしたはずだ」
だが、アイツがそれについてどう応えたか。
結局思い出せなかった。
そのまま、コートを出る。
三年のレギュラーコート参加者は向日、宍戸、跡部のみ。
それから滝が、奥のコートで一年の指導に当たっている。
「放課後、か」
生徒会がないのなら、音楽室に向かい、音楽教師(永遠の43)に指示を仰がねばならない。断るにせよ、何にせよ……
「ややこしいな」
ほとんど動かさなかった体が、不満を述べるようにすっきりしない気持ちを私に抱かせる。
――跡部はうまくやってるだろうか。
気になって仕方ないのは、あちらの方が恐らくずっとヤヤコシイからだ。
「こっちは、土壌があるからな」
知り合いもいる。協力者候補も。
あちらは、に暴露できるようになるまで孤立無援だ。
女子校潜入生活をみてみたい誘惑にもかられるが、私の身体だけに下手な行動を取られても困る。
――マイナス方面ならまだいいが……変なファンを増やすなよ……
これで、別にもてたいと思ってるわけじゃない。
期待されるとついつい応えてしまう昔ながらの御家的性質のせいなのだ。
跡部も同じだろうが……女の花園ゆえ余計拒めないのは、女として育てられながら何故かレディーファーストを強調されてきたせいか。
――その意味までは跡部はしらないだろうさ。
女は怖い。
女ゆえに、女に注意を払え。
なれてしまっては気にもならない祖母の教えが、ふと脳裏によぎった。
TO BE CONTINUED…… |