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【SIDE 跡部】
学園の門をくぐると、そこは女の園だ。予想はついていたし、数度来たこともある。
でも客でなく、登校するのは始めてだ。
――緊張するなんて柄でもねぇな……
ここはの、いわば直轄地。
今は自分の独壇場なのだから怖くはないはずだ。
それでなお怯えるのは忍足から無駄に仕入れさせられたオッカケ知識によるところが大きい。
何せ忍足ときたら朝練をさぼって毎朝こちらに来ていた前科がある(もちろん厳重に罰してから朝向日に迎えにやらせた)
俺の恐怖をあおったのは、ヤツの言う【オッカケ心得その1】、朝のお勤め=入り待ちである。
確かに氷帝テニス部もギャラリーはいた。放課後コートを覗き練習の終わりまでみる出待ちとやらもどきも、いないでもなかった。
が……大抵は誰かの彼女であるし、薄情にも朝はほとんどいないのが現状だ。
――だから半信半疑だったんだが……
門まで後数メートルのところで見えた人の影はしゃれにならない。
気付かなかったことにしたい。あるいはなかったことに。
想像が付かないとはこのことだ。
何せ始業まで数十分あるというのに、そこにはずらりとまるでヤのつくお仕事のように、キラキラしいお嬢様方が整列しているのだから。
「なんで待ってんだよ」と叫んでもよいだろうか。
のイメージだと恐らくリップサービスもつけてやるんだろうが――。
早くも始まった度胸試しに迷ってると、逆側からふわりとした髪を揺らしながら小柄な少女(美がつく少女)が現れた。
――あいつ……
「御機嫌よう、皆さん」
見慣れた顔が、勇敢にも群れの中に突っ込んで行く。
挨拶は立派なお嬢だが、一瞬ものすごい不機嫌顔をみせてくれている。
声にも気だるく、どうやら、やる気がないことを隠すつもりすらないらしい。
「ああややこし、早く入れっての……」と心の声が聞こえたのは気のせいではないだろう。
――けどな……
恐ろしいのはそんな彼女を見て、
「今日の様は一段と憂いをおびてらっしゃる」
だの、
「姫朝弱いのに。珍しく挨拶していただいちゃった」
だのと優美に語れる周囲の女生徒だ。
――これでよくのヤツも挨拶してやってる……
言わずもがな、こちらに気付かず入場した姫とは今日の要注意人物、その人。 が、文字どおり姫扱いしている大切な友人であり、補佐であるといわれているが……
――いい勝負だろ……
とは違って、コイツはコイツで面倒ごとを徹底的に嫌うどうしようもねー性癖がある。
目立ちたくない、ややこしい……=押し付けられりゃ他人にやらせる、の原則の持ち主というのが俺の見解。
形式ばったお姫様ごっこなんて、コイツにとっちゃ以ての外だ。
――つまり……。
当然ファン総無視かと思っていたので、今のは意外だった。
……と、ふとその眠そうな目がこちらを向いて、
「いたの?」
無感動な声がとんできた。
よく気付いたなといいたくなるようなとろりとした目は、むしろ慈郎に近い気すらするんだが、如何せん口が裏切っていることを知っているので微妙に反応に悩む。
――マジに朝弱いのか、……
「おはよう、」
「……ああ、おはよう」
スローペースな挨拶に、つい反応が遅れる。
「――おはよう、私の姫君」となら颯爽と返すんだろうが今はこれで手一杯だ。
「早かったな、【】」
、といいかけたせいで名前を無理に強調してしまったが、相手は気にしてないようだ。
「そう?そっちこそなんか悪いものでも食べたんじゃない?いつもの派手な挨拶がないし」
――やっぱり、可愛げがねぇ……
弱ってそうでこれかよ……。
ある意味コイツがこんなにしっかりしてしまったのは近所のアイツのせいなんだろう。
そう思うと、近所のあいつこと、の幼馴染……イコール、向日のヤロウに文句の一つも言いたくなるが……
――もよくからかってたな、アイツのこと。
一瞬の後、そんなとして報復した方が聞くんじゃないかいうと妙案を思いつき、素直に、「姫がいるなら他はある程度でいいのさ」との偽装で誤魔化した。
――にしても……葉の浮く台詞も頷けるぜ……
が可愛いから、じゃないが、この台詞一つで、周囲が上手く引き下がってくれることが気配だけで感じ取れる。
いいカモフラージュ、とは、鳳よりもよほどを指しているんじゃないだろうか。
――鳳が嫉妬するわけもわかる。
は、以上に気が強く、そこをに買われている。
――多分実の婚約者の……鳳よりずっと……
騙しきるのはますます難しいとどこかで感じながらもそれが妙に頼もしかった。
「……まあ、おいおいな」
かといって、いつかはばれると知れていてもまだ教えるわけにはいかねぇ。
寄り添い歩くに、当たり障りなく、
「氷帝との件だが、報告が遅れたな」
「昨日の今日だから仕方ない。――それより、自棄に真面目だけど?」
「……気分だ。散々あの眼鏡で遊んできたからな」
「あっそ」
そっけない返事に焦る必要はない。
言い聞かせながら、まずこの会話のリズムを覚えることが先だ、そう自分に言い聞かせた。
ここで生活する為には、から逃れつつも、自由気ままな素振りでの側にいるあいつの真似をする他ない。
からかうにせよにとっては特別だ。
その特別のポジションは、俺の樺地に似てかけ離れている。
それだけに、俺としてはどうも実践に不安が残っていた。
「放課後は新規生徒会の予算編成ね。最低ここまでは私達が面倒みることになってるからちゃんと出てよ」
「……さあな」
――これも違うところ……
仕事をやらざるをえない俺もたまには忍足に任せたりするが、アイツにはがいるから無茶をする必要がない。
ゆえに、気楽にサボる(大抵、の家の関係で忙しいから、と俺としちゃよめるが)
「連行するからそのつもりでよろしく。――ところで、一限科学じゃないの?実験でしょ」
「教科書がロッカーにある」
誤魔化して、優雅に答え、靴箱でと別れた。(あちらは体育だそうだ)
――出だしからこのざまか……。
どうやら本当に長い一日になりそうだ。
改めて感じた。
TO BE CONTINUED…… |