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【手塚SIDE 昨晩のこと】
「……えーと…ふつつかものですが?」
「それは違うとおもうぞ……」
――たった数日のことなのに、何でそうなるんだ。
手塚は首をかしげた。
天然、ならばいい。
ただ彼女の場合は、わざとこちらを煽る傾向があるものだから、どうしようもない。
「……ってのは冗談だけど」
――やっぱりな。
そうおもったこちらを誰がせめられよう。
「それで?なんだ?」
「……本当にいいの、かな」
「何がだ?」
「だって……」
言い淀んでいる理由は何となくよめた。
『――一緒にいよう』
そういいだしたのは自分。男のサガというか、そういう気がないとはいいきれないが、それ以上に旅行でおいていかれたを一人にしておきたくなかった。
心配なのだ。自分も家に一人、という状況のまずさがわからないわけではなかったのだけれど。
「やめるか?」
「どうしたい?」
――……わざと、か?
計算なのか、此方に対する挑戦なのか。
区別が付かないことが恐ろしい。
だが、彼女はちょっとうなってから(しかも俯いてるあたり真剣だと思われる)
「……同じ部屋に……いないでいい?」
――警戒、されてるな。
前科が前科だけになんともいえないながら、ちょっとほっとしたような残念なような……
手塚は真っ赤になってきまずそうに視線をそむける少女をみて、思わず髪をなでてしまったが、びくんとする身体に引き寄せることだけは何とか避けた。
「が望むなら何もしない」
目を合わせて自分自身いいきかせるように告げる。
「……別に……ても……」
「だから、煽るなよ?」
「……」
ばれてる、と呻いた少女が憎いが、今は笑いだした気持ちのほうがそれに勝っていた。
たとえ客間であっても、彼女がいるのなら、本当にそれでいい……そういう余裕があったのだ。
* * * *
【更にさかのぼること数日 SIDE】
いつまで続くのか分からない沈黙は幼なじみがつれてきたものだ。
はでそうになるため息を飲み込んだ。
部屋にはいってくるなり、勝手に本をよんで――いつもは自分がしてるような行動に走りながらも手塚は一言も口をきかなかった。
――そりゃこっちが勉強してたからかもしれないけど。
困った顔で、じっとそちらをみると、目だけがあう。
慌てて、逸らした。
「………」
「………」
「何?」ときいてしまえればどんなにいいだろうか。
だがそれは許されない
そういう理由があった。
――お願いだから、何もいわないで。
祈るように、おわってしまった宿題を見返しつづけること数分、さすがにそろそろ飽いてくる。間ももうどうやってもこれ以上持ちようがないだろう。
いつだっては仕掛けるほうで、仕掛けられることは苦手だった。
なのに、相手の方から押しかけてきているのだ。今回は。
さらに言えば……
――あの後会ってないし。
部活が忙しくて、あの朝家にもどってそれから……学校の生き返りこそ一緒だったが、他の交流はほとんどない。
だからまずいのだ。
余計に意識してしまっている。
は微妙にじんわりとかいているテノヒラの汗をぬぐった。
親から、双方の親の合同旅行(よくある行事だったのでつい先日までは気にもかけていなかった)の話は聞いてるに違いない。
――絶対、知ってるくせに……
言い出してこない彼が何を考えてるかまで、には手に取るようにわかった。
幼なじみならではだが、それは相手も同じだろう。
「こちらが分かってること」を見越して、言わないでいる辺り、それこそあちらの打算だと思われる。
――どっちが、意地がわるいんだ。
叫びたい気持ちが募る。
沈黙にたえきれなくなるまで、最早5カウントもなかった。
……と、ふと横で移動する音がする。
自分の他は、彼しかいないのだ。
もう、「どうしてるか」なんて、すぐ後ろに感じる体温や、軽く肩を叩く手などなくとも分かる。
だが、どちらにせよ視線をぶつけるわけにはいかず……従って、は黙ってうろたえるほかない。
「ずるい……」
お決まりのように呟くよりさきに、手塚は静かに言った。
「旅行のことはきいたな」
「……」
――無言の重圧ってやつ?
ともすれば、後は黙り込んだって……
「―― 一緒にいよう」
決定にきまってるのだ。
何が、とか、いつ、とかもう誤魔化す言葉はない。
「嫌なのか?」
頷けるはずもない。
――でも……
「嫌」とも違うのに、ただダダをこねたい気持ちがあって、「けど」「でも」「やだ」と……毎度毎度幼なじみを困らせてきた単語が舞うのだ。
「一人にしておくには忍びない。それに早くおわるとはいえ部活もあるからな。夕食もその後つくるんじゃ大変なんだ」
「何、それ。作れって事?」
可愛くないとは思いつつ、
「家政婦がわりなら他の子に頼めば」
へらず口が出てくる。
声には沈黙がかえった。
怒ったかな、と思う。
かえって、不安になったのはの方だった。
伺うように覗き見て、
「二人分のほうが効率も駄賃も多くなる。そうは思わないか?」
思わぬしたり顔に、目を白黒させる。
いつのまにこんな饒舌になったんだ。
打算ができるような……まるで――そう、男みたいに。
――ずるい。
でも、口にはできなかった。
ちょこっとだけ誤って頷きかけたこちらをみて、手塚国光――なんだかんだで最愛の幼なじみは、先ほどの自分を真似たように、覗きこんできたのだ。
その顔はいつもどおりでちょっと弱い、彼らしい雰囲気。
「……やっぱりズルイ」
「いいんだな」
翻訳機能までうまく作ってくれて、彼は決定事項を告げた。
逆らえようもない。
* * * +
【そしてお泊り1日目 本日… 手塚SIDE】
「それで?」
にこっと食えない顔をしながら笑うチームメイトに、手塚は頭を抱える。
自分の失態をグダグダといわれることは読めている。
――いや、この場合いわれずと分かるというべきなのだろうか。
だが、何もいうまい。
「今度は何をしでかしたの?まさか無理やり――」
「ちがう」
微妙に否定の声がきつくなったのは、前回が当たらずと当からずだったため。
それを悟られまいとどこかで必死になっている自分を感じた手塚である。わりと小心者なのかもしない。
「じゃあ、何でここのところ浮かれてたのかな?」
――うかれ……。
否定はできないが、顔に出す気はなかった。
少なくともこの表情に気付いたのは恐らく――
「やあ、手塚。どうかしたのか」
「乾……」
そう、彼だけだろう。
「苦い顔しているが、なら不二を探していたぞ」
「僕?」
「そうだ。……相談役のつらいところだな。両サイドか?手塚は俺が引き受けよう」
「ありがたいね」
好き勝手な応答をして、不二が出て行く。
後には乾と自分のみが残された。
手塚は、眉間の皺を一層のものにして少しだけ考えたが、
「本当に相談にのれるのは俺だけだと思うぞ」
「…………」
「今なら情報の流出はしないと約束しよう」
それを聞いて決心が固まった。
完全には信用できなかったのだけれど。
* * * *
「それはなんと言うか……」
「何も言わないでくれ」
事情を説明したはいいが、あまりに哀れそうな顔で見られるため手塚はため息がてらに頼み込んだ。
経緯は簡単だ。
いよいよ両親がでかけてくれた昨日の夜、
泊りこみもOKが出て……食事だのすべてを済ませた彼女は客間に寝てくれたが(名誉のために言うが何もしていない。本当にすぐに来てぐっすりだった……まだ日にちがあるが、危機感はないにもほどがある)
更に朝……呼んでも呼んでも声がせず、なかなか起きる気配がない。やむを得ず部屋まで乗り込んだところは……案の定、夢の中だった。
やむを得なく部屋に入って起したのだが……
* * *
「起きろ」
一向に目を覚ます気配はなく、寝返りを打ち、手塚の腕を掴んできたのだ。
――仕方ない。
剥すように努力したが、しがみ付いてなおこちらを引き寄せてくる姿はまるで、あのときの再現のようで、さすがに動きが止まってしまった。
「頼むからおきてくれ」
いくら軽く揺さぶっても――いや揺さぶるほど何だかまずいことをしているような気になるなるのはさり気なく手塚の頭に、そういうシーンが回想スタートしていたり、ますます彼女が苦しそうにするからだろうが――状況は改善されなかった。
どうしようもなくなった手塚だが、そこは何とか耐える。
耐えに耐えに耐えて……だが
「ぁ……くにみ…」
自分の名前を弱弱しく呼ばれかけた途端、かえってそれが災いした。
何とかしなくては。
人とはそう思うときにかぎって、可笑しな行動に走ってしまうもの。
焦りすぎた手塚は、唇をふさぐという暴挙に出て……
「?……え?や…っ?!!」
叫ばれこそしなかったものの、次の刹那張り飛ばされる代わりに……
* * *
――思い出したくない。
外傷でも終えればまだよかったのだが(それはそれで冷やかされて大変だったろうが)実際は違う。だけが傷ついて、そして……
「泣かせるなといおうにもその程度でそれじゃ……」
ぼやく乾の言葉は、今の心境そのものだ。
泊ると決めたときだってそういう想定もしないわけではなかった。
――我慢してもいいとは思ったが……。
キスの一つや二つ。いや三つや四つくらい許してくれろといいたいのは此方の勝手だろうか。
おかげで、今朝はその後口をきいてもらえず――まあ、急ぎもあったのと涙にびっくりして追い払われるままに出てしまったせいもあるのだが、手塚は結局昼休みまでもんもんとしながら過ごしたのだ。
「昼休みは……と思ったんだが不二に捕まって……」
「どんまいだな。だが、いくらびいきとはいえ、不二もそこまで鬼じゃない。放課後までにはおちつくよう、何か言ってくれると思うよ」
「……だといいがな」
苦笑がもれる。
このまま放課後も、となると、危ういのは夜だ。
食事は何とかできるが、実際彼女を一人にしたくない気持ちはやましい目的でなくともある。
むしろ、不安でいつでも見ておかなければならないのは、彼女という立場になる前とて同じことで……
「ところで、手塚。とは……」
「?」
「そんな状態できくのは酷か……」
「何が言いたい?」
「いや……。すまなかった。大変だな」
ぽんっと。
乾は肩をたたいて、去っていった。
「………」
複雑もここにきわまれり、というやつである。
とはいえ、ソウイウ彼女を思い描かれるのはもっと面白くないし、からかわれるなんてもってのほかだろう(との距離がますます開いてしまう事実はすでに読めきっている)
勝負はどうやら、放課後に持ち越しのようだ。
――今日の練習は少しだけ早く切り上げられるから……
何とかしなくては。
これでは、一緒に過ごすどころではない。
再び思い返して、泣きたい、と手塚はそう少しだけ思った。
to be continued
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