|
「もう知らない……」
離れた体温は戻らない。
ゆっくりと遠ざかる指先に、手塚は不安を覚えた。
――かといって、自分が泣かせてしまったようなものだ……。
いつもならひょうひょうとしているの表情は明らかに追い詰められている。
長い付き合いのせいで理解できてしまう自分が悲しい。
けれど、そんな手塚でも、その理由までは分からなかった。
だから、彼女の要求にしたがってしまったのだ。
いつものように――
* * * * * *
「それで?――は、ちゃんと家に送り届けたの?」
電話越しに、不二の苛立ちを感じる。
「ああ」と、低く頷けば、「なら責める気はないよ」と軽い声が返った。
そうは本人言っていても腹のそこでは何を考えてるのか、手塚には正直はかりかねた。
不二がをどう思っているのか――聞くべきでないと分かってはいても、おとといからずっと頭を離れない。
自分の想いを自覚してからは尚のことだ。
「手塚は何を聞きたいの?」
顔を強張らせた自分に、携帯の向こうで、不二はにぃっと食えない笑顔を見せているにちがいない。
「意外と馬鹿だよね」
――そのとおりだ。
だから、彼女に話しかけられもしない。
変なところ生真面目な手塚は、謝ることもできなければ、だがしかしこれ以上待つことも出来そうになかった。
* * * * * * *
どんなに拒んでも朝は来る。
練習がある日は当然、早く起きてより一足先に学校に向かう。
一緒に行く約束があるわけでもなし。
翌日、手塚は彼女に何も言わずに学校に向かった。
特に別段普段と変わらない登校スタイルである。
だが、いつもなら何処かしらで出くわしていたように思われる彼女と、その日は結局会わずじまいで……
―― 一日くらいタイミングが合わないこともあるだろう……。
そう思っていた手塚が、避けられてる事に気付いたのは結果として三日後のことだった。
何で分からなかったのか、自分を責めてももう遅い。
とりあえず手塚が尋ねた先は、学校一データを持つ男、乾であった。
相談相手は不二以外。
考えぬいてのチョイスだが、手塚は声音を一層潜めてから、打ち明けたが、
「……なるほど。で、どうしたいんだ?手塚」
――何とか釈明をと思ってたのだが釈明もへったくれもないな。
その問いに、状況を吐露して捕まらない彼女をどうやったら捕まえられるものかを聞ければいいつもりでいた手塚はぴたりと止まった。
黙ってしまった自分をみて、乾が先を読んだように続ける。
「打ち明けたのか?」
それ以前に、自分がを好きだとは一言もいってなかったのだが、乾は遠慮なく「そんなの皆が知ってるさ」と暴露してくれた。
どうやら知らぬは本人ばかり、を地で行っていたらしい。
「そのために追いかけてるなら無駄だぞ」
なぜか尋ねる前に、乾は手をちっちっとあやしげに振った。
「彼女は聞きたくなくて逃げているから」
「では、俺は一体――」
どうしろというんだ?
漏れるため息に、乾は苦笑を持って答え、
「バトンタッチだ。俺にはいいアイディアが浮かばないから、いっそ彼女に親しい者に聞いた方がいいだろう」
直ぐ後ろを指した。
そこには出来る限り話題にふれないよう避けてきた相手――不二が、いかにも「自分は悪いことしません」という表情で立っていて、ついでにいえば、それはいつもの笑顔よりは幾分真摯に見えた。
が……。
「いっそ、しちゃえば?」
「っ……」
「汚いな、手塚。ふきださないでよ」
何を「いたす」のか、分からないほどガキでもなければ、男からかけ離れてもいない青少年真っ只中の手塚は、すぐさま不二の不穏な前回の発言を思い出す。
――この間、脅かしたのはどこのどいつだ?
言いたくなる手塚である。
ついでを言えば、『彼女に親しい者』という総称自体が気に入らなくもあったのだけれど。
一方、不二はそんな手塚のコメントをスルーして、たんたんと「うーん にも責任はあるとおもうし。分かるよ。俺も男だからね」とのたまい、
「これ以上待ってもこじれるし、もどうしていいかわかんないんだと思うんだよね」
「あのな」
「あ、けど、合意は一応無理やりでもとりつけてね。部活から犯罪者だしたくないし」
――参考になりようもない……。
それどころか、犯罪を推奨されても、これ以上問題も傷も広がりそうな答えを出されても、困るだけだ。
「だから、手塚。と会う手筈は整えておいたから……」
「不二、お前何を……」
「急いで家に帰ってね」
「不二がに手塚の忘れ物を届けさせる確率、67パーセントだ」
嫌な予感ならこの時点でしすぎるほどしていた。
だが、これが最後のチャンスだということも、同時に分かっていた手塚は、ありがとうともすまないとも言わず、複雑な表情で帰宅を宣言した。
「先に帰らせてもらう」
「いってらっしゃい」
不二の笑顔は相変わらず不気味だったが、手塚は見てみぬふりで教室を駆け出した。
to be continued
|