【SIDE】
「ん?どうかした?」
一緒に帰る約束もなく、普段からそうしたでもない。
だから、ちょっと前が異常で、ここのところのほうが普通なのだ。
――ブンちゃんに心配させちゃってるのは悪いって思うけど。
でも放課後でなくとも、精市と二人きりの時間がけずれてほっとしてる。精市といるときはブンちゃんもいて、わいわいしてるし。
――でも、あの、部室前の意地悪はまいったな……
それも流石に反省したんだろう。(後でさんざん他にといつめられて、辟易したらしい。おかげでこっちにライバル視する子があらわれなかったのだが、それもテニス部が上手くいってくれたからだと、れんちゃんからきいた)
だから、久々に忍び込むように、音楽室に入ってきた精市にびっくりしたのだ。
ましてやテスト期間がようやく終了したばかりだというのに……部活はいいんだろうか?
【幸村SIDE】
すぐに行動をするつもりはなかった。
暫くの間、離れていたのはなぜかときかれると、単純に「気分」としかいいようのないものだが、蓮二辺りは何か別の裏を読んだようだった。
昨日は朝一番、屋上で会うなり、参謀に眉根を潜めて(なかなか確認しにくいが間違えない)
「あまりブン太を苛めるなよ」
そういわれた。
「心当たりがない、とはいわないが、あれは不可抗力だ」
に魅力がないとはいわないが……完全な誤算だったから(俺がを渡したくないと思うのもそもそもわかりはしなかったから、計算もへったくれもないが)反論したが、
「ちがう。――今、放っておいているのは誰だ?」
言われて気づく。
ブン太にを任せたのは本当に「偶然」なのだが……
確かに必要のない、期間外の自主練や、微妙に時間をずらした登校日をもうけたり、と、自然に自然にとの距離を調整している数日があった。
もともとそんなに近くにいたわけではないから、ナチュラルではあるが、それを過剰に心配するだろうブン太の性格も予想の範囲ではあったはずだ。
わざとやるほどの……そこまで酷い性格をしているつもりはない。
――……ともすれば、俺も逃げていたんだろう。
ブン太はうすうす気づいている。
は……少なくともブン太には恋情を抱いてはいない。確定的であるといっていい。
そういわれれば、「分かっていて」辛いだろう位置にブン太を置いたのは、を恣意的に一人にした俺だ。
蓮二は、そのことを叱るのだろう。
「手放すつもりがないなら、今日くらい迎えにいってやれ。テストも終わった」
「ああ……」
「言われずとそうする気があったか?」……と、そう、軽く開いたあの鋭い目が問う。
――悪いが、お前の言うとおりだ。
今回ばかりは、不自然にを避けて見えても仕方ない。
無言のままに、に会う時間を引き延ばした可能性がなくもなかった。
「インターバルがいると思ったわけじゃないだろう?」
こうも蓮二が執拗にいうのは、彼が本当にを大切にしているからだ。
そして俺はそういうふうに扱うことが出来ないでいた。
「そうだな、告白しよう」
多分思いもよらないだろうが、本当のところ、今思えば〜ということがいくつもある。
その一つを俺は明らかにした。
きっと俺を探してきただろう柳……蓮二に。ついでに、屋上にきたことすら教室付近で二人きり、すれ違わないですむようにという付箋だったと気づいたという理由もあって……。
「……実は、蓮二みたいになれればと思ったこともあるんだ」
いたずらっぽく「お前の方が大人だった」と言えば、
「無理だろう」
見透かすような目がついてくる。
――参った……
実際どうシミュレーションしても無理だったのだ。どうやってもあの頃の俺は、優しくなどならない。怪我があってもなくても……病気があってもなくても……もはや関係ないのだ。
俺は優しくはなれない。ならば……
「どうしてだと思う?」
こんな形でしか確認が出来ない。
容易くきくな、自分で回答を探せというだろう――そう思って挑んだつもりが、参謀はあっけなく応えてくれた。
「そっちには、余計な感情がついてくるからな。独占欲だったり破壊欲だったりといった類の――」
――ああ。
他人の手にかかれば、わりと見えることもあるのか。
「ブン太に感謝するとか、言うなよ?……精市、お前のそれは時折相手に失礼だ」
「……そうか」
忠告は受け取るが、そこまでの無神経さはない。
そもそも、この事態を引き起こした切欠はブン太なのだ。
「アドバイスをくれないか?」
少しだけでも優しくなれるように。
誰も傷つけずにいることはないとわかってはいても。
「全てきめてる相手に、敢て教えてやりたくはないものだな」
「幼馴染の背中を押してくれてもいいだろう?」
「散々押したが足りなかったか?」
「かもしれない」
即答すると、蓮二は驚くでもなく静かに目を閉じ、唇の端を上に上げた。
了解、といったところか。
これ以上の答えも、口ぞえももう必要はない。
俺は放課後を待ち、そしてそのまま放課後ブン太にずばりをいわれてしまったのだ。甘えるな、と……。
『けれど――他を選ぶなど認めさせない』
その言葉に嘘はないが……昨日は、結局には会えず、今朝もすれ違ってしまった。
――だから……今日は……
何かがいえるのかはわからない。
ただ、授業も終わり、部活も上手く早めに切り上げた。
は音楽室にいるだろうか?俺を待ってるのだろうか?
* * * * *
――――ラスト エピソード 触らないで……――――――
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