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【SIDEブン太】
「あれ?じゃん」
「ああ、だな」
何をしてんだ?
首を傾げてる俺に、ジャッカルは「なんかやばくねぇか?」と指さした。
見つけたは、二人の女生徒と話してるが……なんつーか、そのアレだ、アレ。
「少人数でもいじめってことになんのかな」
「むしろ、の方が強そうだからあんまりイメージじゃないけど、どうする?ブン太」
聞かれるまでもない。
あれから何だかんだとまとわりついて分かったが、は人に溶け込もうとしなかったが、好んでケンカを売るタイプではなかった。
――……てことは、俺らが原因だろぃ?
何となく一人でいるに(それが好きだとは分かってたけど)近づきすぎて、目立たせてしまった感は否めないし、もともと幸村との噂でわりと敵外視されやすいポジションにいたんだ。
「ちょっと、行って来る」
「ああ」
――あーけど、幸村君の怒りを買いたくねぇな。
時おり完璧な人格者に見えていた部長が、に酷い難問を言いつける話は、本人の愚痴からきいたが、「あげない」の台詞は引っかかっていた。
のことをどう思ってるか定かではなくとも、俺らと関わらせたくないのは確かだ。
――けど、ま、今更じゃんか。
「おい、!」
「あっ、丸井君」と、一人(見た事あるかもしんねー顔の方)が驚いて、距離を取る。
俺はお構いナシに飛び込んで、
「あのよ、幸村のお母さんに忘れ物頼まれたんだろぃ?」
事実はどうあれ、「幼なじみだから仕方なく」がちょっとでも伝われば、と視線を投げた。
「あ、うん。家近所だから捕まったの。……叔母様『は』好きだから、仕方なくね」
真意は通じたらしく、が話を続ける。
ついでに、これでも俺もわりかし持てる方だし?(調子にのってるわけじゃねーけど。所詮、テニス部ってステータスだし)と、ばかりに付け足すのは、
「で、流石にデマも流れてるから、直接いえないけどって幸村君から伝言。『おかしな誤解されて迷惑になるといけないな。母さんにはいっとくから』だって」
「それでわざわざ【丸井君】が?」
――あ、まずかったか、名前呼びって。
思うが、他の二人は「納得」の表情を浮かべてるからいいだろう。
「伝言頼まれただけだから、じゃな」
「あ、面倒な伝達役ご苦労様」
はい、お芝居はここまで。
毒気を抜かれた二人が離れる頃を見計らって、俺は音楽室に向かった。
多分、も来るだろう。
ジャッカルには悪ぃけど、いつも一緒に食ってるわけじゃねーし、仁王らと食堂でまちあわせてっから、俺一人抜けても問題ないはずだ。
ついでに、幸村・真田・柳組は部長会の用意だと、朝聞いた。
途中購買によって、サンドウィッチを入手し、ドアを開くと、案の定、
「さっきは助かった」
「なんで、ああクソ面倒なヤツらがいんだかな。で?、昼くいっぱぐれたろ?一緒にくわねぇ?」
「あ、うん。お弁当もってきたの、ここで食べようと思って」
「俺もサンドウィッチ買ってきたから。食べ終わったら何か聞かせてくれよ」
「ピアノ?」
「そ。今日は午後音楽あるクラスねぇって渡辺(音楽主任)も帰宅済み。弾きたい放題だろぃ?」
「さぼらせる気?」
「あっ、流石にマズイ?ジャッカルにもとめられたんだけどよ」
といいつつ、本当は止められたのは別の内容だったりもする。
さっきじゃなくて、朝練んとき。
「あんまり、に構うなよ」っていうから、一発殴ってやった。
さぼりとか以前の問題で、でも理由が分からなかったから。
そしたら、まあ「幸村のストレスになる、か」とかいいながら柳が現れて……
「止めんのか?」と睨む俺に、「好きにすればいいだろう」ってジャッカルをつれてった。
――柳のやつ、わかんねー。感謝してるけど……。
まあ俺はがなかなければいいと思う。
「次の時間、家庭科じゃなかった?」
「あ!」
そりゃマズイのは俺の方だ。
今日は美味しいストロガノフって話だ。同じ版には野々山(男な。でも料理の腕はすげー)がいるし。
「でしょ?じゃ、少しだけね」
適当な椅子をくっつけて、俺らはいつもより口数少なく食事を取った。
は聞かせるためなんだろうけど、会話があまりなかったのは俺が黙ってるから。
いつもは、俺がしゃべって、彼女の反応を引き出しているようなもんだ。
で?今日はなぜって?
ピアノが聞きたいから?
違う……それだけじゃない。
ちょっとだけ、気にかかったからだ。
* * * * *
空気がおかしい、と感じたのは昨日からで、本格的に変なのは真田だった。
「なあ、柳。アレ何とかなんねーのか?」
真田のお守り係と信じてやまない、の幼なじみそのAをみるとヤツは目を瞑って感慨にふけったまま、「あそこまで露骨になるとは……」と何やらぼやいている。
――どうしようもねーな。
諦めて放っておいたが、真田は真剣にうんうん唸ってこともあろうに俺(と横でちょっと前まで二人組でストレッチくんでた仁王)んとこに近づいてきて言う。
「幸村の練習量が異常なので、各人気にしてやってくれないか」
「プリッ?」
「何じゃそりゃ」
反応は当然だろう。
そんなことしようものなら、「何、無駄なことに気を使っている」と当の部長さんから殴られるのがいい落ちだぞ?
「真田、なんか悪いもんくったんじゃなか?」
仁王の言い分はもっともだ。
「いつも以上に練習に力は入っているようですね。大会前ではないのに異変といえばそうですが……」
別に問題はないのでは?
柳に相槌を求めた柳生と、他も大概同じ意見だった。
だが、真田が無言で指し示したのはラケットのガットだ。
幸村君はものすごく道具を大切にする人で、ラケットについてはかなり気を配っている。
しかし無造作に放り投げられた代わりのラケット(多分本日二本目?なのか?もしや)はガッドが擦り切れた状態で、かなり危うい。張替えどころか、穴が開かんばかりのものだ。
「珍しいっすね」
入り込んできたのはさっきまでその、幸村君とボレー練習をしてた赤也で、一同ぎょっとして(幸村の登場がないかどうか)離れたがクエスチョンが耐えなかった。
部室の鍵を職員室に戻しに、一足先に幸村が退散した合間に、俺らは「誰か何かしたか?」と顔を合わせてお互いを見合ったが、何もねーときてる。
浮かんだのはの顔で、まさかと思っても他に部長が変化を起しそうな人間関係は考えつかなかった。
俺も仁王、柳生、柳、真田、ジャッカル……途中から紛れてきた赤也に至るまで、特に普段どおり会話していると結論付け、うち数名は思うところがあったようで、俺を指差した。
「なんでだよ?」
「お前が原因ってことじゃなくて、何か知らないかと思って」
「はあ?」
「からきけるんじゃなか?」
「なんで?」
まあ俺も理由は何にせよ(幸村が彼女を好きとは素直に受け取れなかったけど)と何かあった可能性は捨てきれずいたんだが、
「えー?幸村先輩って彼女いたんすか」
そんな赤也のちゃちゃに、
「彼女じゃねーよ、幼なじみ」
答えてみて、周囲が「なのか?」と首を傾げたところで、ふと思った。
――あれ?幸村君って……まさか……?
いや、確かに「あげない」とはいってたが……。
――のこと好きとか?
まあ、其のときはそんなに気にもならず、それどころか、満面の笑み(これが恐い)を浮かべて、当人がやってきて、
「放課後、打ち合いをしようか」
綺麗、だが邪悪としか思えない顔のまま、真田を指名し(つまり真剣勝負前提ってことだ。わざわざ全部員の前で副部長VS部長を繰り広げるわけだから)その後、付け足すように笑って、
「たまにはやってみるか?」
俺に話を振ったから。
「おう、やる」
「ヤル気じゃないか?」
「楽しいからな」
「それは光栄だな」
目の前の勝負(テニス)の方が楽しみになったから忘れていたけれど。
* * * * *
ふと、思い出したのは試合の後、やっぱり「らしくない」と思った幸村君の行動のせいだった。
試合の話とは関係なく、帰りがけ、「と仲良くなったみたいだね?」とか笑って、これで安心して放っとけるよなんて言ってたけど……
――やっぱそういう冷たい言い方って似合わねぇし。
気になるから、こちらに、ともいかず、でも、幸村君のあの調子でもまた妙な会話を繰り広げてるんじゃないかと思って心配半分に聞いてみることにした。
「最近、どうよ?」
何を、とは言わなくてももう分かるようになってる。
最初はからかい半分だったけれど、「冷たすぎにもほどがあるだろう」ってような、放課後みたいな、わけのわかんない会話の応酬とか……俺のわかんない幸村君が気にかかったから。
小耳に挟んだ幸村の言い様は正直酷いと思うこともあるし、それはびいきになってしまっているから仕方ないのだけれど、「平気」と笑いながら顔に出て落ち込んでるのをみてると、励まさなきゃならないと思い始めている。
だから、さり気なく聞くようになっていた。
まるで見張るように。
――で……それで、段々分かってきたことが「本当にこいつって幸村君命なんだよなぁ」ってことなあたり、どうかと思うぜ?
そりゃ、最初から肯定されてはいるけど。
少し悔しい。
のこと、すきとか嫌いとかあんま考えたことはなかったけど、胸の奥がいらいらした。
「普通。でも何か変。テニス部で何かあった?」
「特にねーからきいてんのだってあ、けど、このあいだ珍しく打ち合いした」
「へぇ。結果は?」
「聞くな」
そうだ。あれは完全な試合だった。
苛苛しようが、変だろうが、幸村はの前ではまだしも、俺らの前では基本的に完璧なんだよ。
に冷たい幸村君って像を聞いたり、実際ちょこっと覗けてしまったりしたりで、イメージこそ少々変わったものの、部長はあくまで部長だ。
最強でマイペースで、穏やかで……
――あー。でも……。
「可笑しいかもなー。俺、1ポイント取れた」
おかしいのはそれだけじゃない。
真田が心配する(キモイ)のだって珍しい。
そのうえ、柳は柳でなんだか珍しく突き放してるときてる。
柳なんて、俺より、幸村のこと分かってるのに。
「ブンちゃんの実力じゃない?」 と笑うには言えないが……
――頭きたって、幸村にゃ勝てないって。
そう、普通のときなら。
まあ直ぐに元に戻るだろうと思うから俺が心配する理由なんてないか。
俺は俺で満足してるし、も特に何もないならいいと思う。
部長の悩みじゃ、俺ごときで解決できないし。(幸村君も考えすぎなとこありそうだからな)
「あ、リクエストいい?」
ピアノの前に付いたに、気持ちを切り替えて言う。
「うん。いいよ、何がいい?」
「明るいやつ」
「了解」
の指先が鍵盤を統べる。
そうなるともう他のことは消えうせた。
誰かがピアノをひくやつの指は綺麗だといったけれど、 側にみるとわかるがあれはある意味で本当である意味で嘘。
の指は細いとはいえ、女の子にしちゃしっかりしてたし、筋肉が適度についていて、逞しくみえることもある(曲によって、だからイメージかもしんねーか?)
それでも、それを眺めるのが凄く好きだった。
の手も、真剣で楽しそうな横顔とか、キラキラして見える目とか。この空間それごと――
お昼休みギリギリだと時間差で出てこられないから、と結局二曲しか聴けなくても、一つはよく体育祭でかかってるやつで、俺も知ってたし、「クラシックって悪くねーのな」と笑ったら、もう一つの方はクラシックですらなかったらしい。
どうも耳慣れてると思ったそれは、赤也に借りたMDの中にあった曲。
こういうのもは好きらしい。
ドラマの主題歌ってのは意外だった。
そうして、実習後、ちょっとだけ教室に荷物をとりにきた放課後――
* * * * *
「あ、先輩!」
「おう、赤也。悪ぃ、俺ちょっと用事あるから、まだ部活いけねーわ」
「そうっすか」
隣の教室の前でばったり赤也と出くわした。
仁王辺りに辞書をかりてたんだろう。
バッグなんかとは別の手に、英語辞典がある。
「部長にいっといたほうが」
「あーいいわ。すぐ行くし」
「調理実習っすか?」
「ん。つーかなんですぐ食べ物直結なんだよ?」
「だって、先輩。女より食い気じゃねっすか」
「そりゃ……」
何故か肯定するところで、ふと疑問を覚えたのは……
「あ?どうかしました?」
「いや」
――つーか今俺、何考えてたよ?
ちょっとだけ、一瞬だ。
でもその刹那、「下心」が舞った。
単純に、このあいだの実習のお返しに、ドサクサ紛れで野々山と一緒につくったクッキーをに持ってくだけの予定が……。
「え?まさか、そっちの方も用があったりして?」
「なわけねーだろぃ」とはいえなかった。
――つかまってんじゃねーだろぃ……
笑ってんなよ、赤也。
取りあえずいら付いたから、後輩の頭を掴んで、「うっせー。くいもんで悪かったな」と誤魔化す。
「はは、きをつけてくださいねー。最近部長厳しいし、俺もこないだおこられたんで」
「お前はいつものこと」
幸村君にしちゃ珍しいな。
そんなことを残りの半分で考えながらも、残り半分はさっき浮かんだ考えを消すのに必死になっていた。
たまたま出くわした場面で、「謝らない」っていったのも、幸村がありえないくらいを放っておくから。
――他へはやさしいのに、なんで?って思ったから ちょっと怒っただけなはずだろ?
――あげないと言われてむっとはしたかもしんないけど、そういうんじゃなくてはいい子だからだし……。
そう、思って、「下心」で浮かぶ彼女の顔を、かき消す予定だった、そう、あのシーンをみるまでは。
to be continued……
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