【はじめ】  :仮面の告白  (入学式・エピローグ)

「おはよう」

 見慣れた校門に見慣れた連中が揃っていた。
 新しい高校、別の校舎……なのに、もう慣れている自分がいた。

「おう、

 部長が部長じゃなくなっても、赤澤は皆に慕われてるし(練習は春休みもやってたから知ってる)。

「おはようだーね」

「おはよう」

 木更津とだーねのダブルスも続行。
 本当に代わり映えしないのだから、実のところ馴染むも馴染まないもないのだ。

「そういえば、代表の挨拶、じゃないだーね?」

 それで思い出す。
 忘れてたつもりもない、もう一人を。 
 
「内部も外部も一緒くたに一番成績がいい人って言ったら、この学校じゃ内部生に決まってるでしょ」

「でも、観月と張ってるってきいたぜ?」

 特別クラスは1クラスだけ。
 少なくとも一年は同じ教室で過ごすのだと聞いたのはつい先日。
 ――びっくりしたし、そりゃ嬉しかったけど……。

「最悪……」

?機嫌悪いだーね?また観月と喧嘩したんじゃ……」

「観月なの」

「え?」

「だから、代表は観月なんだってば。しかも数点差だったって言われた……」

 ――知らされてもそんなの嬉しくないっ。
 昨日の練習の帰りからわざわざヤツは私がムキになるのを見てからかうし、そうでなくとも何だか頭にくる。数学は私の方がよかったのに……。

「負けず嫌い……」

 木更津が横で呆れてるが、気にしないことにする。
 だーねと赤澤も「またやってる」とか呟いてるんだけど……。

 そう。何だかんだで私と観月の意地っ張りは治っちゃいなかった。
 というか、いつも競争。
 刺激があって、いいのだが、周囲に言わせると「頼むから痴話げんかはもう止めてくれ」らしい。ちなみに私たちからすれば、そんなつもりはない。
 これが通常で、あの数ヶ月が異常だったのだから。

 式の開始まで後数分。
 聖堂に向かって歩いていくと、すぐ裏の音楽室から音が聞こえた。
 ――ピアノ?
 いやレコードと歌だ……生の。

「リハじゃねぇ?」

 赤澤の声に、誰かが「聖歌隊」と言い出すより先に私はぴんときた。

「絶対観月」

 ――だって、これ……。
 よりによって、前に一度歌ってとリクエストして断られた曲なんだから。
 早足でそちらに向かう。
 皆も納得してるみたいで、後をついてきていた。

 ちょうど聖堂の裏にまわったとき、観月が姿を現した。
 計算済みというわけではないのだろうが、釈然としない。
 私がむっとしてみせると、
 
「遅いですよ、

 観月は余裕の笑みで、そんな顔しても無駄だといわんばかりに「んふっ」と声をたてて笑った。
 上機嫌の様子に周りが退いてる。
 私は別の理由で自分の顔を一瞬こわばらせた。

「オハヨ……」

 何とか一言。

 ちなみに私の周りには赤澤始め早々たるテニスメンバーがいるわけで……ついでに、付属の入学式だけあって馴れた様子で聖堂を目指している新入生ももうたくさんいる。
 他からしてもテニス部員は有名なんだろう。特に観月は……。
 つまるところ、何人かがこちらをみてヒソヒソささやき合っているのだ。

 ――入学早々悪目立ちしている感がバッチリ?

 青学にそのままいたところで、卒業式のアレのせいで注目度は同じだっただろうし、噂されることには不二のせいで慣れてる(余談だが、不二といえば、観月の携帯を通じて可笑しな交流を続けているのよね。観月がわざわざ私を呼んだのも、不二兄からメールで吹き込まれてのことかもしれない)
 けれど、馴れないものは馴れないのだ。

 諦めてメンバーの会話に加わってしまえば周囲の視線は気にかからないというに、そうなると今度は逆に観月にばかり意識が集中してしまうのが困りものだ。
 観月はさりげなく私の手を取って、指を絡ませた。

「聞いてますか?」

 ――離して……っていえたら楽なのだが、言えないのが問題……。
 生返事で頷く。
 観月はなんで平気なんだろう。
 そっくりだと思っていた意地っぱりな性格も、最近は時折自然に溶けてるのだ。
 そんな些細な箇所ですら、こちらは負けてるようで悔しいのに。


「明日の朝練には遅れないで来てくださいね。赤澤も先輩が今日ミーティングに来いといっていたでしょう?……?マネージャーもですよ」

「……朝弱いの知ってるくせに」

 ――仕事だから行くけどね。
 通学時間一時間三十分を舐めないでほしい。

「ならば寮に入ればよかったでしょう?女子寮はすぐそこですし」

「女の園?私には合わない。無理」

「知ってます」

 ――だったら進めないでくれ。
 ……と思うが、反論するだけ無駄。
 それに……。
 ――当たり前の会話なのに、これだけでなんか嬉しいだなんて反則。
 恥ずかしすぎる。

「朝早すぎてどうしようもないときは僕のところに泊ればいいでしょう?」

「だーっ。なんてことを!」

 赤澤が叫ぶが叫びたいのは私だ。
 木更津にいたっては「それもいいかも」とか口走っている。
 ダーネは当然顔を赤くして、いつのまにか出てきたノムタクが友達らしき(?)に私と観月の説明をしてる。(しなくていいってば)

 これだけで終ればよかったのだが、落ちがつくのはこの後。
 式が終わり、学級活動も終ってからのことだ。
 ようやく落ち着いた私の元にやってきた観月が、さり気なくこの手に鍵を滑らせたのだ。
 もうほとんどのクラスメートが帰りかけていて、テニス部が溜まり始めていたとはいえ、衆人環視の前であることは代わらず……
 
「約束どおり、鍵は貴女に預けますよ」

 約束――それは音楽室の鍵なのに、そこそこ仲良くなったクラスメート(何故か内部生ばかり気が合うのは、テニス部効果なのか?付属校に通っていた性なのか)が一斉に騒ぎ出す。

「何。何?さんって観月の何なの?」だの……
「えー、どういうこと?」だの……

 挙句の果て、結局わずか一日にして「学年公認」の称号を貰うようになるのだった。

 ちなみに、寮の方の鍵は、帰りがけに寄ったとき、観月に部屋で直接手渡されることとなる。――どの道、本当になるのだから早いか遅いかの差だったのかもしれない。

 *    *  *  *  *  *  *  *

、今夜は泊っていきなさい」

「なんで……」

「明日は遠征でしょう?起きられるんですか?」

 そんな会話が成立するのも、「観月」が「はじめ」になるのも、そう遠くない話。
                                   END

                   


◆後書きモドキ◆

BACK