お昼休み。
授業はラッキーにも少し前に終った。(漢文はいつもそうだから予測済みだったりもする)
滝は何人で来るか不明AND頼まれていなかったから、日吉の分だけ先に食券を買っておこう。
どうせ同じBランだから……あ、でも偶には丼ものも――
そう思ったときのこと……
一匹目。
「あー、俺、丼ものね」
二匹目。
「せやな、なら俺のも頼むわ」
一匹目が訂正。
「駄目、そっちはうどん」
二匹目が解読AND通訳。
「半分こかいな?」
「そういうこと」
「了解。……てなわけや」
交渉成立。
……て!!
私が買うんかい!
振り向いて絶句した。
「ほなよろしゅう」
そう笑った人間は間違えなく忍足侑士で、その横にいるやけに人懐っこそうなヤツは噂の慈郎君とやらだった。(見覚えはある。いつもと大分違う印象だが。……うんこっちなら納得いくわ。ちょっと可愛い系だ。趣味とは程遠いけど)
* * * * * * *
「……で、こうなったと」
席につくといつの間にか滝と向日がいて、食堂のテーブル一列を貸切状態。
女子一人の状況には馴れてるが、流石はテニス部レギュラーの花(?)。
ジロと忍足が入っただけで当社比五倍増しの視線が痛い。
席次はきちんと端っこゲット。
日吉の横で滝の前ね。
違うのは斜め前に忍足がいることくらい……。
「滝、(忍足の動向)知ってたなら先に言ってよ」
「知ってたら(いきさつなんて)聞かないだろ?」
「ソウネ……でも食券くらい……」
これだけの大人数の席をとっておいてくれたのはひとえに先にきていた向日と滝の功績だった。
食券も二人分ちゃっかり先に確保していたらしく、既に食べはじめてるし(麺は伸びるし冷めたらシェフに怒られるから正しいっちゃ正しい)。
「ああ、二時間目の休み時間にメールしたんだけど?気づかなかったが悪い」
「俺の分は先輩の言い出しですよ?昼ぎりぎりになるなら、先に買っといたのに」
「……ごめん。日吉」
「いえ、こっちがありがとうと言うべきとこなんで、勝手に謝らないで下さい」
この辺はもういつもどおりの会話。
それで何って、ここでだけは勘弁して欲しいと願ったこと。
女の子たちだらけの中で、ホワイトデーのお返し。(もれなく呪い付きだと思われる)
だが、そんなモラルを気にする連中じゃなかった。
これなら照れも乗じて、朝さっさと渡してくれた宍戸や冗談抜きでのっけから渡してくれたガックンの方がよっぽどいい。
「あかん、メインを忘れるところやった」
「そうそう!お返し始めてだC!」
「は、ははそうなの……?」
お返し始めてって……この子、教育間違ってるよ。
うん。
「……先輩方は『女なんて星の数』を地で行ってますから」
日吉、それあんまりよくないから尊敬しちゃ駄目だよ?
目で問いかけたがシカトされた。
ついでに滝まで被害にあってる。
その冷たい眼差しの……。
いや、だから……その……滝は今日はくれないけれどキチンと、むしろ一番適切なお礼をしてくれてるわけで……がー★*P!”#”#$(意味不明音の羅列・恐らく心のスピーカー壊れ気味)
「俺は場所を選んでるだけだよ」
と、さりげなく滝は交わし、場所を選ばない残りの二人組は簡単な仕草で、ほいっとこっちに紙包みを渡した。
「ありがと。気にしないでもよかったのに……ワンオブ義理だよ?」
「だからー。それでも手作り美味しかったC」
とお子様は笑い、なるほど義理が始めてなのか?と不安な要素を思い浮かべさせてくれた。
これだけ人懐っこければ義理は山ほどいそうだが?
まあ義理にあえて手作り(しかも仕込みに一日以上)は私くらいだろうが……。
阿呆が役立つときを痛感しつつ(大概意味ないんだね、それって)私は愛想笑いで答えておいた。
……半分、真面目に嬉しかったしね。
それで凍るのですよ。
渡すつもりのなかった「本命」もどきから、義理としてもぎ取られたチョコレートの代償をどううけとるべきなのか。
「ほな、これ」
差し出されたのはこれまた「しっかり選んだのです」と主張する大好きなメーカー(高くて手がでない)のネコマーク。
へえ、ホワイトデーも売り始めたのか……と緊張しつつ、緊張が相手には決して見えない無表情のまま手に取った。
「ありがと」
消えるような声に忍足は気づかなかった。
かわりに「馬鹿だね」と反応を返してくれたのは滝で、「そこ、役目違うやろー!」とかテンションに任せてでかかった言葉を私は抑える。
日吉が微妙な顔で横からこちらを伺ってたし。
「それにしても滝と、ほんま仲いいんやな。日吉の彼女かと思ったんやけど」
と、既に逆側の席(ジロとガックンだ)に話しかけはじめた忍足の誤解に絶句しながらも、何とか昼休み終了。
いつもなら図書館でだべったり、教室戻ってカードゲームやらなんやらに参加したりもするんだけど、今日は大人数(仲ヨシさんだ)なので、お暇。
滝も「たまには付き合わされそう」と、クラスに(むしろジロとガックンに)連行されてった。
「日吉もいっといでよ」と、追い返して一人になろうとも思ったが、その瞳が「あの三年にこれ以上つきあえと?」と無言の重圧で返されて、黙り込む。
「一人になりたいならいいですが、ホワイトデーに一人もきつんじゃないですか?」
「私の性格的に?」
「気にしないとかいいつつ、しっかり滝さん取られたって顔に書いてありますよ」
「忍足の間違えじゃない?」
「さあ」
そうだね。
本当はいいタイミングでうまく一人にしてくれた滝がにくい。
愚痴って一緒にいて欲しいのは滝なのに。
「ね、日吉。暇?」
「別に」
OKってことか。
なら偶には付き合わせてやろう。
うんうん。
日吉が外でテニスしに行ったり(主に滝やら向日やら途中から出てきてさらってくニックキ鳳長太郎相手にだけど)するときは、私は見に行ってたまに混ざったり、どっか別の友達んとこ行ったり……それから一番多いのは……
「今日だけつきあってよ」
実は音楽室だったりする。
太郎(43)には妙に気に入られてる為、準備室の鍵はゲット済みだ。
大抵彼らは嫌がるから秘密にしてるのだが。
日吉ならきっと問題なし。
「何しにいくんですか?」
音楽室への道すがら、嫌な予感を称えた彼に私は笑った。
「退屈したらゴメン。でもきっと平気だから。今日だけ、ね?」
きっと平気。
滝みたいに齧ったことはなさそうだけれど、日吉、聴くのは強そうだ。
これでもピアノだけは上手いのだよ。
今まで貰った紙袋がやたら重い。
そんな中、私はともかく鞄もって早足。
さすがに道中からかわれたら日吉が可哀想だし。
数分後、鍵を所定の位置から取り出し(その際、43に見られて頷かれ、日吉を見つからないように外に出しておいて正解だと確信した)特別棟の2Fに上る。
そこで見たのは……
>>> 第一音楽室へ
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