File:03 再びSIDE K・SENGOKU
「おい、千石」
「ん?」
何を聞こうか、なんて、とっくにわかってんだけどね。
跡部君は手塚君が昔からお気に入りだから。
手塚国光を部屋に案内した後、俺は跡部君の部屋に引きづられて行った。
『仕事』の終わった日は大抵ここによる。
他よりちょっとだけカーペットが豪華で、ちょっとどころじゃなく洒落て見えるこの部屋で、作戦(ミッション)の内容には触れない程度に親しい話をする。
そんで、おいやられて俺が自室に戻るの。
今回引き止めたのは彼の方だったのだけれど。
(でもさ、順番が逆なんだよ……)
俺が話すべき相手はちがうっしょ?
てか、まだ確かめ算が終わってない。
跡部君に教えるわけに行かないともなれば、チャンスは今しかない。
交流を深められて、ボロが出ても困るし。
そもそも手塚は分かってるのか?
(俺が彼を襲ったこと、気付いてんのかな……)
「あ!手塚君の認証登録忘れてた!めんご、俺今から行って来るから」
「おい、何企んでやがる」
「あのねぇ、これはないとまずいっしょ」
一筋縄ではいかない相手に手のひらの認証タグをキラリ。
「ちっ……」
急いで戻れと無言でいう彼に「後でね」とわざとらしく手を振って、俺は部屋を飛び出した。
こういっちゃなんだけど、わりにちょろい。
* * * * * * * *
手塚の部屋は俺らとはちがって、一ランク下にある。
っていっても、この角を曲がってすぐ、歩いて3分ってとこ。
「やっほー」
ふざけた調子で部屋に入ると、案の定、彼はまだ寝てなかった。
几帳面な性格からか部屋の様子を見ていたようだ。
ここが何なのか分かってない身分としちゃ仕方ないだろう。
「何だ?」
低い声。
「これ」
単語で会話すんのは癖と実益。
そのまま、首を引き寄せて認証タグをかけてやれば、端麗な顔と冷たそうな薄い唇が見える。
手塚国光は抵抗しなかった。
(相変わらず嫌味なくらい整ってんな……)
驚きついでにキスでもしてやろうと思ったが、近づくだけで凄く嫌そうな顔をされたもんで、止めといた。
無駄に強い瞳。
何かをうけとめるか、探るか、虚勢でもなく落ち着いた視線。
こういうところは悪くない。
跡部君が気にするのも分かる。
じっと見ていたら居心地が悪くなったのだろうか。
手塚君は眉宇を一層潜めた。
「何だ?」
「あー、認証タグ。それがないと部屋も出られないし、鍵もかけられないんだよ」
行動への疑問符だとしっていて、見当はずれな答えを返す。
「………」
多分、聞きたいことは山ほどあるはずだ。
自分が何故追われたのかとか、持ち出すよう指示されたディスクが何なのかとか――あるいは行方不明になっていた菊丸君の行方とか。
でも、俺がいえることには限りがある。
跡部君にだったら、自由に話させられるけど(……ていうか、彼はそのどれもを知らないし、手塚君はそれを説明するところから始めないといけないしね)
「何か質問ある?ていうか、食事の場所とかお風呂とか……生活システムの説明くらいはしなきゃわかんねーか」
念のため聞いてみると、「頼む」と、手塚君は簡潔に教えをこうた。
俺は一通り説明を試みる。
外出は一週間の研修を終えれば自由だということ。
ここには部署があって、それぞれ分けられてるということと、ついでにここが第一実行班で、二班と隣あってること。奥のフロアが研究班、逆が食堂とロビー。会議室は中央で、トレーニングルームはその脇を抜けたところ。
個室の他の施設の紹介……例えば食堂はセルフキッチンの他、基本5時から25時まで空いてることやシャワー室を大浴場の利用の仕方。
ついでに面積が学校程度だということ……。
話す間手塚君はしきりにメモをとっていた。
覚える気ならスゴイ(俺はそっこー挫折して、跡部君の教育係として説明しなきゃってなってから必死こいた記憶がある)
「……と、こんなかんじ。他に聞きたいことがあったら遠慮なくどうぞ。
――って言っても、ありすぎて困るか」
もっとも、一番知りたいだろう「どうして手塚国光がここに来る羽目に陥ったのか。何で逃げるよう指示されたのか」は教えようもない。
(こっちも、上から手塚国光を撃てっていわれただけだし?)
直属の命令なんて久々でビックリしたが、まあ跡部君とはちがってどうしようもない事情ってより、俺の場合好んで巻き込まれてる部分が大きいから、理由はきにしない。
でも今回の件は興味がなくもない。
何って目の前に、そのターゲットが現れるとは思いもしなかったからだ(そういや、あの命令って無効なのか?)
「……千石、一つだけいいか?」
「え?あ……」
混乱してるのは俺の方かもしれない。
横からかけられたしっかりした口調に慌てて返事をした。
が――そこはそれ。もうベテランですから……
背後でした小さな音に、切り返す方法が浮かんで、俺はにっと笑った。
「ああ、質問はいくつでも受けるよ。ただし――」
ほら、注意事項はつけたさないと。
これくらいの知恵がなきゃここじゃやってけないよ?
「俺に、じゃなくて、【彼】にね?」
ドアごしに人の気配。
手塚も感づいたのか、はっとした顔をした。
ギィ
わざと音をたてるように、扉をあければむすっとした犬一匹。
俺が遅かったから不審に思ったか、あるいは仲間はずれが嫌だったか。
「……何やってんやがる」
(ナイスタイミング。さすがは跡部君)
「タグ渡して説明するとこ。
――……ってこんな時間じゃん?
やっべ。俺、今日もこれから出撃なんだよねー。鉄砲玉の宿命ってやつ?」
「アーン?」
「うん、うん。そういうわけで、後は頼んだ!」
「まっ、待て、千石!新入りならてめぇの担当だろうが!」
不機嫌そうだが、そんな顔してみせても無駄。
跡部君は実は面倒見がいい。
手塚君相手なら尚のことだし、跡部君を代理に立てておけば、うっかり俺が手塚君にヒントをあげてしまう事態も防げる。
(一石二鳥?俺って、ラッキー!)
「俺は仕事なの。しーごーと」
ドアを飛び出ながら、さっと右足を確認。
リボルバーなんて旧式だけどボスの命令じゃやむを得ない。
重い銃を確かめてから、後ろをむいてニヤリと笑う。
「命令ナンバー315。絶対条件AF。跡部景吾、手塚国光の質問に答える!……てよりも、多分場所わかりにくいし、案内してやってよ」
――ついでにどうして来たか覚えてる範囲できいてみたら?
最後の部分だけ耳打ちすると跡部君は顔色を変えた。
(ま、そんなこといっても手塚君自身覚えてないだろうね。菊丸の捜索とか不二君の電話とか……)
命令コードがものをいったか、追いかける声はなかった。(315は絶対ナンバー。直属命令。従わないものには……アレだ。食事抜き?)
手塚君の不可解な視線にも気付いたけど、無視して廊下をまっすぐ、別フロアまで移動する。
「後はシクヨロ」
同業者の物まねをしつつ、俺は研究室の扉を開けた。
気はすすまないが、仕掛けさせてもらった超小型盗聴器からデータをぬくためには観月んとこにいかなきゃならない。
「あーでも、出来れば南んとこで済ませたいなー」
一般人だからキツイっていっても、お人よしなアイツは毎回何とかしてくれてる。
「うーん……たまには……」
ありだよな。
無しだろ?と呟く脳裏の声を消して、俺は方向をかえ、地上出口(ここは地下3Fなのだ)を目指した。
こういうとき、特権階級は楽でいい。
TO BE CONTINUED =手塚SIDEへ
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