| File:09 〜 SIDE Keigo Atobe 「おい、どういうことだ?」 「どういうって?」 千石は上手く誤魔化す。 「外に……出られんのか」 「近辺に出ていいかって聞いてんだよ」 胸倉を突かんばかりに言えば、千石は「ごめん、俺が許可できることじゃないんだけど」といつもどおり俯いた。 (胸が痛てぇ……) 「でも」 諦めかけたとき、千石が言葉を続ける。 「場所を限定する。それから、誰にも会わないこと。――間違ってあった場合は命令コート00だ」 コード00……消去。 (つまり、仮に消すとしたら……) 「そのリスクを負えるなら、どこにでも出ていいんだ」 「てめぇは……」 「俺は【社員】だよ」 「ないはずの部署の、かよ」 「そう。合意で入ったから工作は済んでる」 千石は言ったが、もう表情に暗さは覗かせなかった。 (胸糞悪ぃ……) それでも、千石が悪いとは思えない自分が一番むかついた。 (コイツのことを、なんだかんだで信じてるのは俺なんだよ!) くそっ。 「おい……」 「ん?」 『用事がなきゃ、いくよ?』 「行って来るから場所を言え。ただし――」 「?」 「ただで済むと思うなよ」 脅しにもならない脅しだ。 「…………」 だから案の定、千石は黙り込んだのは正解だ。 「くっ……はっは……ははははは……」 「おい、てめぇ。本気で笑ってんじゃねー」 「だ、だっておかしすぎっ…何言われるか、俺、どきどきしちゃったじゃん」 「……もういい」 やっぱりムカつくもんはムカつく。 「痛いって」 「で?場所はどこだ――?」 「んー……その前に、これ」 「んだ?」 渡されたのは瓶。 (薬、か……?) あまりに怪しげ過ぎるだろう。 「中身は化粧だよ。化粧。肌の色くらい代えておけば何とかなるかなって……まあ気休めだけどね。ついでに室町印のサングラスか、手塚君タイプの眼鏡――じゃ意味がないから逆光用のやつね、各種取り揃えたから好きなの選んで」 「ふざけっ」 「てないよ」 顎を捉えて、そのままサラリと鼻先に冷たいものが触れる。 「マジか」 「うん。マジ。化粧は特に本気……別人に見えるようにある程度作れる」 『来なよ』 「それからさ」 「何だ?」 (未だ何かあんのか?) 手のうえでこねくり回して何やら本格的に支度に入った千石に問いかければ、罰が悪そうに目をそらされる。その後ヤツは決心するかに息を吸い込んだ。 「巻き込みたくないお気に入りんところだから、大人しく注文してね。バーもやってるから、しっかり出来る程度でなら飲んできていいよ」 「……ああ」 (なんだってーんだ?) 「本当は一緒に行こうって思ってたんだけどさ。一人でノンビリしたいときもあるっしょ」 アーン? 「始めてのおつかいみたいな感じ?」 「ざけんな」 反射的に緊張感もない対応をしたが、それが功を奏したか、千石はその後は何も言わず俺の顔を弄っていた。 「あーあ、俺もいきたいのになー」 「………」 「ていうか不安だし」 「………」 訂正。 (落ち着くからいいけどな) 外に出られる高揚と、状況のおかしさから俺も寛容になっているらしい。 TO BE CONTINUED =SIDE |
君はまだ気付かないでいいんだよ?