おにいちゃん心配症。 1、スタートと同類項 |
幸村がうちに帰ると、一足先に帰宅していた妹が居間ですっかりくつろいでいた。
炭酸を片手に携帯をいじる手は、兄からしてみれば理解できないほど早い。
自分も遅くはない方だと思うが、幸村からすると、女の子ってすごいなと感じる瞬間だったりする。
「でね……」
こちらに気づかず楽しそうにしている妹。
兄はちょっとがっかりした。
珍しく練習試合をみにきていたから、一言くらい(自分も勝ったことだし)あるかな、と期待してたせいもある。
「ねえ、お兄ちゃん、勝ったんだけど」
と自己申告を試みるが、
「知ってる」
即座に切り捨てられる。
(てか、気づいてたんなら挨拶くらいしてよ、と思う)
これ以上言っても「うざい」の一言が戻ってくるだけか。
判断は正しい。
――ここはぐっとこらえて……
笑顔をひきつらせながら、「そう」と答える。
その間、何事もなかったかのように雑誌をとって自室に戻ろうとするが――
こともあろうに、帰ってきたら読もうと思ってた漫画雑誌は、妹の横に転がっていた。
――あれだけでも取っていきたいけど。
そうは問屋がおろさない。
弱気ながら、妹の横を通りかかった兄は、妹の一言に動きを止めた。
「あ、切原君だ」
What????
What IS KIRIHARA?
「どこの切原さんですか」
知らない。そんな名字の知り合いとか。俺にはいないからね。
叫びそうになりながらも、「たぶん違う!違うったら違う。違うんだから関係ないんだよな」と意味の分からない三段論法を展開しかける幸村精市(15)。
だが、妹は、幸村と同じかそれ以上にはっきりした性格だったので、
「は?何いってんの、アンタんとこの後輩だって」
「………」
声が出ないとはこのことだろうか。
なんていっていいか、いろいろ浮かび過ぎて浮かばず――
「はああああああ?」
結局盛大な質問?を一つ。
「なんで、知ってんの?」
「交換したから」
「いつ?」「今日」「お兄ちゃんきいてないんだけど」「言うとか意味わかんないし」
傷ついたのか、対応策を考えようと思い立ったのか、
自分の心も分からないまま、幸村は口をあけて、しばし瞬きをし……
「ちょっと、出かけてくる」
Uターンを決め込んだ。
「ちょっ、おにい――どこ」
「コンビニ」
ご飯前だと知ってても、もうこのままいて冷静に接することができるか分からない。取り合えず逃げるべし。
こうと決めれば幸村の行動は早い。
* * * *
――黙ってられるほどおさまりつかないっての。
妹が好き、というつもりもない。(シスコンじゃない!と言い張っておく)
でも、赤也ってのはどうなんだ?それはしゃくじゃないか?
あれでなかなかモテるのは知ってたが、なんせあの素行だ。
「で?」
コンビニを選んだのは、もしかしたらこいつがいるかもという予感があってのことだが、「実際いるのはどうだよ?」
後半だけ、口にしたら、怪訝な顔でスルーされた。
相手、仁王は、仁王でしごく不機嫌の模様。
正直その理由もなんとなく知っている幸村なので、敢えてこっちからは触れない。
かわりに、答えた。
「――というか、なんで赤也なんだよ?っていいたいんだけど。誰だよ、あんだけ見張ってる中、あいつを赤也に近づけたの……」
「いや、お前の妹からむしろ――」
「なんかいった?」
「いえー」
「お前だって、どうせねーちゃん関係なんだろ」
お互いに痛いとこをつつき合っても仕方ないと思っても、つい――口が滑る。案の定、仁王は、「彼氏が来てる」とむすっとした。
「へえ、そりゃ大変。ご飯は?」
「食べてくって」
「お泊コースだね」
年齢も年齢だろ?といってやれば、おねえちゃんっこ(とかいてシスコンとよんでいいとおもう)仁王はむっとを通り越して、真っ青になっている。
――まずい……
実は仁王については、ちょっとしたトラウマを持っている幸村である。(泣かせてしまった数年前の遺恨が……)
きりかえて、「いや、そろそろ帰るんじゃないかな」といえば、
「そっちも、まあ、赤也はだれとでも仲よくなるけぇ」
フォローが入った。
といいつつも、すぐさま「お互いに」、という状況にがっかりして、肩を落とした。
コンビニ外で、飲んでいた缶コーヒーは殻。
つまんでいた、おでんの汁も時期に冷えること請け合い。
「夕食たべたんだっけ?」
「まあな。――そっちこそ、夕飯ならさっさとかえりんしゃい」
言い合うさなか、タイミングよく着信。
幸村は蒼く光る携帯をおして、声を確認した。
「ちょっと、お母さんがよんでるって、おにいちゃん!さっさとかえってよね」と、言われるだろうセリフに情けなくなりつつも、まだ無視はされてないだけましだ、とほっとする。
同時に、あちらにもメールが届いてたらしい。
「帰ったか……」
姉の彼氏、のことだろう。
分かり合えるようになったら終わりだと相手も思っているとも知らず、同時に、
「「じゃあ」」
はもり、
「「……」」
微妙な沈黙を残して――二人はコンビニを去った。
これが、定例会になっていくことを予感していた仁王に対し、幸村はそれだけは避けたいと真剣に思っていた。この段階では。