【SIDE ツナ】
「は?」
「だからさ、ボス(俺)と契約して、彼女に専属メイドになってもらおうかなって」
「ふええええええええええええええ?」
「ええええ、じゃないよ。いいでしょ。そのくらい。獄寺君こそ、彼女を専属のメイドにするつもりだったみたいだし、あんまり人のことは言えないよね」
YES OR はい の図である。
獄寺からすれば厳しいだろうが、結果ボスに逆らわないことを知っているからこそ言える。
「大丈夫だよ。夜は……それなりに早い時間には返してあげるし、無茶は……まあ、あんまりしないとおもうな?」
「なっ」
「ま、早い話、本当に借りたいんだよね。此処んとこ、ろくなメイドがきていないの、知ってるだろう?」
「……はあ」
そこは、頷かざるを得ない哀しい現実だった。
何せ、ボスのメイドとなれば厳選はしている。
しかし、どうしてか人気のボスを前に舞い上がってしまって仕事をろくにこなせないもの、恋に身を焦がし、自分から脱落するもの……敵こそ紛れ込まないものの、年頃の女性は大体がツナの笑顔に騙される。
ツナ自体は、ある程度自覚はあったが、それでも騙されないでくれるくらいしっかりした人間でないと使う気がおきなかった。
いくら基本的にはりつめているボンゴレトップとはいえ、自室でまで気を使いたくはないというのもあった。
かといって、中年のなれたメイドはメイドで、もっと問題の多い雲雀の別室(普段は風紀事務所だがボンゴレにも別邸がある)や、ヴァリアーに優先的にとられる。これもこれでもっともなことなので、ツナからしても文句がいいづらい。
そうなると、はそれを免れた唯一の……実に申し分のない人材なのだ。
あちらから色目を使うこともなければ、気を使わずとも済む。どのみち長く付き合うことになりそうであるし、今から慣れてもらった方がいい。
――うーん……我ながら直感的にいいアイディアを選びとったよね。
もう、獄寺のことなど二の次になりかけているツナだが、獄寺の方はそうもいかない。
「いいよね?そう長くとは言わない。ちょっと疲れもたまってるし、休みをとりながらの仕事にきりかえるつもりだったんだ。そうだなバカンス替わりに、三日三晩でどうだろう?」
「三日、ですか?」
「うん。三【晩】」
「……その、メイドの勤務時間は――」
「ボス命令」
「な、」
「嘘。っていいたいところだけど、俺の仕事のスケジュールは獄寺君が一番よく知ってるはずだ。休めるのは夜から明け方と、一部の昼だけ。そのうち会席が二日入ってる。バカンスっていっても、結局、書類を減らすだけだからね」
「……仕方ないですね」
十代目がいうんじゃ、とはいわない。
だが休みを与えられない自分のふがいなさも勝手に感じているのだろう。獄寺はしぶしぶ了承した。
「じゃあ、早速夕飯後から待機させてよ。ベッドメイキングと、清掃、それと……マッサージを頼みたいかな」
「マッ…」
「最近肩のこりが激しくて行けない。……ああもし彼女が苦手そうなら、教えておいてあげてくれるかな?」
「俺が、ですか?」
「うん。獄寺君、ほぐすの上手だもんね」
天使のように微笑んでいるが、付き合いも長い。
裏側に走る別の意味合いにも気付いただろう。
ぎょっとしたような顔に安心して、あはは、と。ツナは声をたててわらった。
――さて彼女になんて説明する気かな?
様子が見てみたいとは思ったがソレも後で本人から聞くまでだ。残った書類をざっくりかたづけながら、獄寺の足音が離れるのをツナは静かに聞いていた。
* * * * *
「流石に」
ちゃんと時間通りにこさせるものだ。
目の前で緊張した様子の彼女に、あーあと思う。悪い意味ではない。ではないが、なんてかわいそうな、と言う意味では、あんまりよくないかもしれない。
「山本様の秘書をやっておりました、と申します」
「うん、構えなくていいよ。それで、今度は獄寺君が、メイドにって推挙したんだってね。だから、わざわざ秘書を下してまで、奉仕してもらいたいような子だっていうんなら、俺にくれない?ってきいてみたんだ」
「っ」
「あ、ごめん。言い方がよくなかったね。安心して、たった三日と、三【晩】だけのことだから」
「……あ、あの……」
「何?」
含ませてこまらせるのは、彼女ではなく、獄寺だけで十分。ツナはもちろんそのつもりだった。
だが恋には少しのスパイスだって必要。ましてや全てを通り越して簡単にプロポーズなんて仕出かす相手だ。
――正直、そこまで気に入ったっていうなら、ちょっとだけちょっかいだしてみたい気持ちもなくはないけど。
やりすぎるとマズイということは重々承知。
それ以前にそこまできて止めないならどうせうまくいきっこないだろう、と、都合のいいように考えているボス(黒め)
――すれてきてしまった自分に対して、あれであの色男は純すぎるとおもう。ことに女関係については……。
ツナは、がっちがちから、もう顔色が蒼白になりかけている少女を気遣って、軽くエスコートするように肩を抱いた。そのままゆっくり自室に招き入れる。
「リラックスしてもらって構わないよ。そうでないと俺の方が緊張するから」
「で、でも……あの、獄寺【様】が大事なボスだから粗相のないようにと……」
「あー、獄寺君ね。硬いからな」
俺の大切な右腕なんだけどね?
冗談めかしていいながら、そっと、背中を撫でれば、ふるりと、は腰をのけぞらせた。くすぐったかったらしい。
――此処、弱いのか?
さりげなく、たしかめながら、髪をよけて、ぎりぎりまで顔を近づける。――その素振りで、獄寺当人の位置を確認した。
――左の扉、それから右側にボックス……
動物は、だしたのか、勝手にきたのか分からないが本人は信頼しているといいながらもまだこちらをうかがっている。もちろん護衛としてだろうが、本来の担当は今日は別の人間のはずだ。
――三日間チェンジするつもりなのだろうか。
流石にそれだと、任務に支障をきたしかねない。
まずいな、と眉宇を顰める。そこまで、干渉に走る右腕に問題を感じる部分もあったし、それに気付けていない少女にも腹立たしさを覚えた。
大切な宝なら、差し出さなければいいのに差し出す。平気なふりをして、差出して、そのくせ気が気でもないと意地を張る。そんな意地では、危険を誘うばかりだというのに。
「――なら、遠慮する必要ないかな」
「へ?」
小声で告げたツナに、が小首を傾げた途端、さらりと、髪がゆれ……
――ふうん。
一瞬だった。
一瞬、あらわになった首筋には赤い印。
やることはやってるのか?
というより、昨日の今日だ。焦って牽制だけでもしたのか?
それは間違えなくキスマークといえるものだった。
――でも……
危機感を植え付けるにはたりてないみたいだね。
「ひゃ、ぁう……っ」
無防備な首に舌をはわせれば、彼女の顔が一気に紅潮した。
「いい声」
「なっ――」
絶句する少女に嫌われるのはどうかなとおもうので、適当にうまくあしらって、
「失礼。緊張を解くにはこれくらいしないとだめだって【獄寺君】がいうから」
「っ」
一瞬――すっと自分の横を抜ける殺気に、「これだから、キミは」ツナは、肩を落とす。
それでも出てこないのだからあっぱれなものだ。
「もう緊張しすぎないで。警戒はちょっとしてた方がいいかもね」
自然にわらえば、ソウイウ意味ではないとちゃんと伝わったのか(本当は半分くらい、その気になってたんだけど)安心したように、がこくりとうなづいた。
そのままベッドメイキングだけ頼むよ、と、シーツのかえをゆびさせば、静かに彼女は作業に入るようだ。
「でも、酷いよね。自分専属っていいながら、俺には貸してくれるんだから」
「……そ、それは……」
「もちろんボンゴレのため、彼はよくやってくれてるよ。でも、キミは?それでいいの?」
今日は此処まで。
後は何も効かずに「終わったら、適当に出てっていいよ」と言いつける。
「まだいたら、その時は夜の方もお世話になっちゃうかも?…だから早く帰ってね」
ぶるりと、身を振るわせる少女には申し訳なさはあったけれど、それ以上に征服欲もかりたてられる。
――まいったなぁ。
これじゃあ、本当にもらっちゃうかもしれないよ?獄寺君。
つぶやいて、待機のため、書斎側のドアを開ける。
さっきとともに視線はいつのまにか消えていた。
一日目終了。
>>>さて 獄寺どうする? 回答は次
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