ここで時間を少し戻す。
ドロリーゴ、法王就任のその朝――ボカロジア一族、ホレン・ボカロジアが父ドロリーゴの就任を知らされるその日の明け方。
彼にもっとも近しい人物による閑話。
* * * * * *
「今日は私の番だ」
ホレンの宣言に、
「うん」
か細い返事が響く。少年――ホレンに比べ、幾分高い音域の声は、指摘がなければ分からない程度に似ていた。
声だけではない。見た目も――全てが、同じと言っても過言ではなかった。
「あ……」
出かけようとするホレンの袖を片割れが引き止めた。
「何?」
振り替えるホレン。
彼にそっくりな「少女」は急いで少年の頭上に帽子を乗せた。
「ああ」
ありがと。
ぶっきらぼうな調子で彼は答える。
照れ隠しなのだ。
少女は吹き出しそうになるのを堪え、慌てて後ろを向いた。
笑ったのがばれて彼の機嫌を損ねてはたまらない。
だが――
「笑ってんなよ」
結局は気付かれて、髪をくしゃりと乱される。整え直すその隙にホレンは扉をくぐって行ってしまった。
「外には出ないように」
言い残された言葉の甘さに、少女――屋敷で唯一名前すら貰えない彼女は少しすねたように足下の小石を蹴り……けれどしっかりと、もう見えない彼の背中に頷いて見せた。
――お留守番。今日は彼の番。
双子が生き残る為の約束。その重さが分からないほど子供ではない。でも……
「一日交替じゃなかったの?レン」
――ずるいなと思うのは仕方ないでしょ?
少女は部屋に戻る前に、無性に庭を見たくなり、煉瓦の小道をそれた。ホレンは外に出るなとは言ったが庭に出るなとは言わなかったのだ。
それにまさか先客がいるとは思いもしなかった……
* * * *
彼女による話は次の「閑話」へ続く。
物語は、時間をカイザレがメイコの屋敷を飛び出した後――同じく就任の日の夜に。