カンパネラ  4ーB2>> twins  start   :レン

重い門を潜ると少年は唇をぎゅっと締め直した。
優しい時間はここまで。
ここからは完璧な「ホレン」でなくてはならない。

呼び出しの相手は父親ドロリーゴ・ボカロジア。
教皇就任が決まるだろう男だ。
発表の前に祝杯を求めてという理由ではないだろうが、彼が敢えて息子である自分を呼ぶのなら裏があると考えた方がいいだろう。

――アイツの勝ちは分かりきってんだ。

ならば目的は……?
悪態は心のうちに止どめて、情報を少しでも集めなければと意識を切り替える。
「ホレン」は名前を貰えなかった片割れと共に作り上げた虚像。
もう一人のホレン――リンという少女の為にもミスは許されない。
レンは(便宜上彼を彼をレンと呼ぶ)そのために、順番を破って「ホレン」になったのだ。
完璧でミスはないが気が弱いところのある「ホレン」。
その弱さが今日は許されない。

教皇誕生の記念すべき日に自分がいかに振る舞うか。あの男はそこを見たいのだ。
おそらくは即位後、「ホレン・ボカロジア」という駒を、どの枡目に置くか考慮しているのだろう。

「――ということは当然カイザレ兄さんも、だな」

ドロリーゴからすれば、片方を戦場に片方を神殿においてどちらをも牛耳る、そんな思惑がある。
兄は果たしてどちらにいくのか?
大方の予想はついていた。

――神に仕えるなんて似合わないのに。

それをいえば双子という禁忌を破って二人が生きながらえている自分の方がよっぽどあわないかな。と、レンは自分をあざ笑うかのように唇をゆがませて、久しく会っていない記憶の中の兄に「あんたはまだましだろ?」と問いかけた。
仲は決して悪くなかったが、兄の眼には自分が映っていないことも正確に把握しているのだ。

「ならば利用するまで」

身内がすべて持ち札と仮定されるボカロジアならば当然のことだろう。
それから緑の髪の姉―― 

「ミクレツィア」 

彼女の使いどころも、早いうちにきかなければならない。
よもや父にリンの存在を気取られていないだろうが、仮に気づかれたとしてもあの父とてこの先容易に殺せやしなくなるだろう。 
その際、どう扱われるか、女性だからこその結末を見極めて、最悪に備えなければならない。

「あの人(メイコ)はあてにならないから」

どうにも年下扱いされることがあって、気に入らない姉は確かに出戻りという特別なポジション。
いざというとき役に立つだろう。
だが、ミクレツィアよりもしたたかで最終のラインで頼りたくなってしまうところがあるのもまた厄介なのだ。
防衛ラインは持たない方がいい。


「私は、私の鏡とともにあるだけです」


言葉遣いを「ホレン」向けに改めて、何度目かになる誓いを向ける。
裏切らないのは、ただ「リン」と「自分」だけ。
ホレンはだからこそここに存るのだ、といいきかせて……ホレンは馬を待機させておいた裏門にまわった。

SIDE B−3